“あの時”もそうだった。
まだ慣れない治癒の力で、その代償に高熱を患った時。
今もそう。使いすぎた魔力を回復させようと、体中が躍起になっている。
身体は火照るように熱いのに、心は冷え切っている。
「何も、できなかった、私・・・――」
朦朧とした意識の中でサフィは呟く。
自分にもっと力があれば、“彼”を救えたかもしれないのに。
「サフィ、入るよ」
アンバーの声がする。
潤む瞳が彼の姿を捉えた。
「熱、まだ下がらないか。
水持ってきたよ。熱くてしんどいでしょ?
なんなら俺の手で冷やす? 冷たいよ~」
黙って水を飲むサフィに、アンバーは調子を狂わせる。
「・・・サフィのせいじゃないよ、あれは。
あんな傷、どうやったって助からない。
あの人に最期の言葉を遺せるだけの時間を作ってあげられたんだ。
君は誇っていい」
彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
「アンバーさんは、どうして普通でいられるんですか・・・?」
「俺だって、こう見えてツラいさ。
けど、皆が皆悲しんでたら、メノウさんも浮かばれない。
俺くらいはフツーでいなきゃ。俺ってそういう立場だしさ。
だから、皆は遠慮なく悲しめばいい」
「そんな・・・。
それじゃあアンバーさんが・・・」
「傭兵ってのはそういう存在。
いつ死ぬかもわからない瀬戸際を生きる孤高の人達。
最期の言葉を受け取る相手がいただけでも、とても幸せだ」
俺にはなかったからね、と彼は続ける。
「・・・ねぇサフィ。俺さ、思うんだけど」
彼のひんやりとした手がサフィの額に触れる。
「俺はたぶん、君の魔力を常にがっつり食ってる。
このままだと、君は俺が枷になって、本当の力を出し切れないと思う」
彼が何を言いたいのか・・・――
「何かを得るには、何かを捨てなければいけない。
サフィ、もし君がそう判断するのなら、どうか躊躇わないでほしい。
・・・俺は恨まないし、むしろ君に感謝してる。
君だけが救えるものもあるのだから」
彼女の額に冷たい口付けが添えられる。
――私はいつか、大事な選択をしなければならない時が来る。
――“私”ではなく、“聖女”として。
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