剣を抜く隙すら与えられなかったジスト。
アクロの剣は彼女の腕を切り落としていた・・・はずだった。

「な・・・」

震える唇が目の前の“彼”の名前を探す。
白銀の刃が真っ赤に染まり、彼の胸から背を貫いている。

「あ、――あ・・・」

刃を引き抜かれ、目の前の身体が崩れ落ちる。
溢れる血が石畳を染め上げていく。

「め、メノウ、しっかり、してくれ・・・」

ジストはうつ伏せで倒れるメノウの肩を弱々しく揺する。

「いやだ、メノウ、どうして・・・!」

「俺は知っていた。
――お前の弱点はその男だ。今回は少しばかり長く“生かしておいた”。
より確実に、お前を止めるためにな」

赤紫の瞳は、冷たい笑みを浮かべるアクロを見上げる。

「それでも聞かぬというのであれば、お前の目の前で1人ずつそいつらを殺していこう。
お前が立ち止まるまで、延々と・・・――」

パンッ!!

銃声が響く。



一瞬の間の後、アクロの胸から血が溢れる。
ごほっ、と咳込んだ彼の口元を赤い筋が伝った。

黒い銃はアクロに向いたまま、ゆっくりと、それを手にする者が前に出る。

「な、ぜ、貴様が、それを・・・――」

膝をつくジストの前にコーネルが立つ。
青い瞳が真っ直ぐとアクロを射抜いている。

「これが貴様の成れの果てか。愚かなのはどちらだ、アクロ。
ジストを苦しめているのは誰だ?
他でもない、貴様だアクロ。
貴様こそ、“ジストが死ぬ歴史”を作り出していた元凶なのではないか?」

灰色の瞳が見開く。

「何を・・・――?!」

「貴様は徹底的に歪んでいる。
貴様はジストの命を優先した結果、ジストの心を殺している。
俺は他の歴史のジスト達を知らないが、貴様に踏み躙られた人生の果てに、こいつが生きる希望を持てると思うか?」

銃口はアクロを捉えて離さない。
どんどん彼に近づいていく。

「死ぬだけでは生温い。貴様は消えろ。永久に、いかなる歴史からさえも。
俺は貴様とは違う。だからこの銃を手にしている。
もしもまた別の俺が貴様に成り果てるのだとしたら、俺だけは、“その存在を消す存在”になってやる。
――守るとは、そういう事だ」

銃口がアクロの眉間に突き付けられる。

「・・・――“俺”は、どこで道を違えた?
教えてくれ、コーネル・・・」

「“最初から”だ。貴様が貴様という存在になったその時が、全ての終わりだったんだよ」

引き金が引かれる。



――俺はただ、生きて欲しかっただけなんだ。

――弱い俺でも救えるかもしれないと思って。

――ただ、それだけなんだ。




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