荒廃した王都。
瓦礫の山、無人の沈黙。
――ただ1人の影。

王都の広場までやってきたジスト達を迎えたのは、アクロだった。



「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」

ずる、ずる、と剣先を引きずりながらアクロは近づいてくる。
反射的に剣の柄へ手を添えたジストは、彼を睨む。

「君はここで何をしている?」

「言った通りだ。俺は立ちはだかるためにここにいる」

「・・・どうして?
私が望む道を、君は妨げるというのか?」

「そうだ」

アクロは無表情で頷く。

「確信した。
お前はその身を呈してこの世界を救うつもりだな?
何故そう愚かな決断を下すのか」

「愚かだと?!
私は、私を育んでくれたこの世界を、“私達”の都合で踏みにじる事など絶対に許せない!!
例えその道の先に私がいないのだとしても!!」

ジストの決意を聞いた仲間達は息を飲む。

「俺は言ったはずだな。
お前の命を最優先で考える、と。
今のお前の言葉は、俺の目的とは相反するもの。
――つまり俺はお前を止めるために、お前の敵となる」

アクロの剣が静かに構えられる。

「ジスト。何故、生きてくれない?
“リアンが成す事”をおとなしく受け入れさえすれば、お前は消える事はない。
何故ならお前は“そっち”の人間だからだ。
リアンとて、お前が盾突く事を良しとしない。
所詮は弱き者達、消えゆくが定め。そんな者達を守ってどうする?
より優れた文明が生き残る、劣った文明は淘汰される。
ただそれだけの事だろうに」

「・・・アクロ、君はもしや・・・」

「あぁそうだ。俺は“リアン側”につく。
お前を生かせる道だ。その未来には、俺が求めたものがある。
気が遠くなるような間ずっと夢見ていた、“お前が生きる歴史”というものが」

かつてはコーネルの生き写しだとばかり思っていたが、今ここにいるアクロはもはやそのような次元を超えている。
ただジストが生きる世界を生み出すために存在する、概念の塊だ。

「その腕、その脚。全て断ち切ったとしても、お前は首だけになったとしてもリアンに噛みつこうとするだろう。
知っている、知っているさ。お前はいつだって俺の言葉を聞かずに突き進んでいく。
だから力で止める。ねじ伏せる。二度と立ち上がらないと誓うまで、俺はお前の前に立つ・・・――!!」

ふっ、とアクロの姿が消える。
その一瞬の後、ジストの目の前にアクロが現れる。

「知っているのさ。お前がどうしたら立ち止まるかを」

「ジスト!!!」

来ては、いけない。
駄目だ、駄目だ。来ないでくれ。
あぁ、来ないでくれ・・・―――――




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