子犬はユーディアの部屋の前でぐるぐると歩き回っていた。
しきりに床を嗅ぎ回り、主の姿を探しているようにも見える。
子犬がカルセの姿に気が付くと、尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
彼を覚えていたのだろうか。しきりに彼の頬を舐めてくる。

「ユーディアはどこ行っちゃったの?」

カルセが子犬に語りかけると、大きな丸い瞳がパチパチと瞬いた。
犬に聞いてもわかるわけが・・・――

「奥の部屋?」

彼は何かを感じ取ったのだろうか。そう呟く。
すると子犬が廊下を走っていく。
その先にあったのはフリューゲル公爵夫妻の寝室だ。
ジストが思い切って扉を開けてみると、窓際の止まり木に翡翠色のオウムがいた。
夫人が常に肩に乗せていた鳥だ。

「ユーディア、ユーディア」

オウムが夫人の声真似をしている。

「本当に喋る鳥がいるなんて、ボクびっくりですよ。すごいなあ」

興味深そうにカイヤがまじまじとオウムを観察する。
オウムが発する言葉は、オウム自身は何も理解していない。
ただ繰り返しているだけ。

「ユーディア、カエシテ!
カエシテ! タスケテ! アナタ!
キャアキャア、ユーディア!」

無表情のオウムは夫人の声でそう絶叫している。

「“かえして”、“たすけて”・・・?」

「まるで悲鳴のようです・・・。
ユディさん達、何かに巻き込まれてしまったのでしょうか・・・?」

恐々と呟くサフィは、ふとオウムの向こうの窓を見る。
先程まで晴れていた空が、暗い雲に覆われて・・・――

「・・・なんやあれ?」

つられて空を見上げたメノウは、空に輝く赤い光を指差した。




-333-


≪Back | Next≫


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved