崩壊した城。
天変地異のような衝撃で倒れた家財。
時が止まったかのような廃墟に彼らはいた。
細くしなやかな指。
薬指に嵌った、古ぼけた指輪。
そこに刻まれた刻印は、翼を広げたツバメの姿。
――かつて黒の国に君臨していたロンディネ王家の紋章だ。
「鷲とツバメの間の子。その翼は大きいか、小さいか・・・。
どちらだと思いますか?」
「謎かけか?」
「ただの賭けですよ。
今まで私が乗ったどの賭けよりも大きなものでした。
なんせ結果が出るのに18年もかかりましたからね」
慣れた椅子に座るリアンは、ははは、と笑いながらそう語る。
その様子から察するに、賭けには勝ったのだろう。
「まぁ、貴方にとってはどうでもいい話ですか。
いえ、気にしないで下さい。
最近私の周辺からどんどん人が消えていくので、貴方がいらして少しばかり盛り上がってしまっただけです」
嬉しそう、という声音で話す彼だが、その笑顔が冷たく凍っている。
機械が“笑う”という行動をしたらこうなるかもしれないといった、心のない笑顔。
「それで、私の18年がかりの勝ち星を、貴方は望まない、と。
私にとっては都合がいい事この上ありませんが、貴方は本当にそれでいいんですか?」
「どうせ貴様には理解ができないだろう。
だが別にそれを求めたりはしない。
俺は可能性が高い方の選択肢をとる」
「経験論ですか。こればかりは貴方の執念に平伏せざるを得ませんね」
「よく言う。貴様こそ“俺と同じ”ではないのか?」
リアンの口元が細く弧を描く。
薄ら暗い、道化師のような表情。
「あいにくと、私は貴方ほど美しく愚かな想いで動いているわけではないのです。
貴方のハジマリとなった“私”という者も、私の記憶にはない別の存在。
とはいえ、私自身もそう遠くない未来に、そういう存在に昇華するかもしれませんがね」
リアンは静かに立ち上がる。
「貴方が贋作を愛でるというのであれば、それを私が否定する義理も道理もない。
せいぜい存分に愛してあげなさい。
歪んだ概念、狂った歯車。嫌いではないですよ。ふふ」
去っていく彼の背を見つめる灰色の瞳。
その瞳はもう揺らがない。ただ、その身に宿るたった1つの想いを貫くだけ。
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