「何故・・・?!
フェナ、どうしてここに・・・!!」

倒れ込んでいたクラインは血塗れだった。
フェナは本能が感じた恐怖で身動きが取れなくなる。

「・・・クライン。
彼女は部屋から出られないはずでは?」

「・・・えぇ、その通り、で・・・
うっ!!」

横たわるクラインをしゃがんだままナイフで貫いているヒト――レムリア、否、リアンだ。
返り血で濡れた顔には薄ら笑いが浮かんでいる。

「命乞いをすれば、あの子と引き換えに助けて差し上げてもいいですよ、クライン?」

「っ・・・!
逃げなさい、フェナ・・・!」

「・・・いや・・・」

ガタガタと震えが来る。
フェナの痩せた肩が震え上がる。

「はははは、美しい庇護ですねぇ。
記念にもう一本いっておきましょう。ご褒美です」

「ぐあっ?!」

床には注射器が無数に転がっている。
透明な液体が、クラインの首筋に容赦なく注入されていく。

「おっと、もう何本目だか忘れちゃいました。
クレイの記録を塗り替えたかもしれませんね。
ついにお兄さんを超えましたよ、さすがですね。あはははは」

「う・・・ぅ・・・!」

抗えない苦痛で床に突き立てる爪が血に濡れている。

「クライン、クライン・・・――」

フェナは倒れるクラインに近づこうとするが、絞り出すような制止の声で立ち止まる。

「いいから、逃げなさい、どこへでも、どこまでも・・・――!」

ゆらり、とリアンが立ち上がる。
彼の足を、最後の力で掴んで止める。

「クライン・・・?」

「――ロコ。強制指令。フェナを守りなさい・・・――」

クラインは何かを詠唱する。
制止されたリアンはその様子を無表情で見つめる。

「あっはは! クラインってばボロボロじゃん! 死んじゃうかもね!
まぁいいや。指令は絶対だからね」

どこからともなく少年の声がした。
いきなり何者かにフェナの肩が掴まれる。

「お散歩しに行こーう!
じゃあね、クライン!! バイバーイ!!」

「クライン!」

鎌を持った少年――ロコが、フェナを引きずるようにして走り出す。

「ゃだ、クライン、クライン――・・・」

か細い少女の声が遠ざかる。





「あーぁ。せっかくのチャンスでしたのに。
いいんですか? 貴方、私に殺されてしまいますよ?」

「どうぞ、好きなように・・・」

「そうですか。それではお言葉に甘えましょう。
――サヨナラです、クライン。
貴方なら、私についてくると見込んでいたんですけどねぇ・・・。
利用できるトコロはいただいちゃいますね。では」

無機質な床に赤い湖が広がる――・・・




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