“何か”が意識を刺激する。
拙い言葉しか知らないフェナにはそれを表現できる手立てがないが、よくわからない確信が心に芽生える。
ゆっくりと立ち上がり、持っていた積み木を放り出し、ゆらゆらと扉に近づく。
――彼女はいつも、自ら外に踏み出そうとはしない。
彼女の身体は外気を毒とする。
それは生まれつきであり、不治でもある。
彼女の中で混じり合う血が、外の空気を拒絶するのだ。
常日頃から外の世界に想いを馳せてはいるが、それが叶う日は永遠に来ない――と、感じていた。
それが“諦め”という感情である事さえ彼女は知らない。
カラカラ、と小さく音を立てて扉が開く。
その向こうは、何事もなくフェナを迎え入れる。
部屋から一歩出ると、彼女の冴えた耳が小さな音を捉えた。
ドサッ、ガタンッ。
何かが倒れるような音。
誘われるがまま、そちらの方へゆっくりと足を踏み出す。
地下への階段を一段ずつ降りていく。
小柄な彼女にとってはそれだけでも一仕事だ。
時間をかけて最後の一段まで降りると、長い廊下が奥まで続いていた。
先程の音はもうしない。ただ記憶だけを頼りにそこへ向かう。
やがて最奥の扉の前に立つと、背伸びをしてドアノブを下げた。
キキキ・・・――
開いた扉を抜けると、人の声がした。
「ははは、まさかこう出るとは思いもしませんでした。
やってくれましたね。愉快愉快」
楽しそうな声。だがその声には全く感情がこもっていない。
「いいえ、不愉快の誤りでしたね。
・・・結局は貴方もその程度の人材だったというだけの事。
まぁ、いいでしょう。犠牲になった“道具”の代わりは貴方に果たしてもらう」
物陰に隠れながら静かに進んでいくと、ようやく声の主を視認した。
そして、横たわるもう1人・・・――
「クライン」
フェナはその名を呼ぶ。
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