――それは信じられない光景だった。
倒れたドラゴンの体が徐々に小さくなっていき、しまいには人間の形となる。
うつ伏せで倒れる、紛うことなき人間だ。
「な、なんだこれは・・・?
お、おい! 大丈夫か、君?!」
ジストが横たわる人物を揺する。
ゆっくりと目を開けたその人物は、虚ろな薄青の瞳でジストを見上げる。
「サフィ、すまないが頼めるか?」
「はい、すぐに!」
駆け寄ってきた彼女が手をかざすと、その人物の傷は癒えていく。
ぐったりとしたままのその人物を抱き起すと、か細い声がした。
「ごめん、なさ・・・
何も、覚えて・・・な・・・」
ジストは“彼”を抱えたまま硬直していた。
「・・・レム?
君は、まさか・・・」
この中性的な顔立ち、背格好、声音、そのどれもに覚えがあった。
青白い癖毛が、彼のわずかな動きによって小さく揺れる。
「ど、どういうこと?
これ、レムリアさん?!
・・・の、」
アンバーが言いかけた通り、見れば見るほどよく似ている。
しかしあの邪道な男とは裏腹に、酷く衰弱しているようだ。
その青年はゆらゆらと揺れる瞳をカイヤの方に向けた。
「・・・っ・・・
アリア、なのかい・・・?」
「え、ボクですか?!」
「小娘。“アリア”とは誰だ?」
「――・・・ボクの、お母さんだそうです」
「・・・そうか、もうそんなに・・・」
青年は力が抜けたようにふっと笑う。
「君は、・・・“レムリア・クルーク”、なのか?」
ジストの問いかけに、青年は頷く。
「そう・・・。僕がレムリアだ・・・。
君達は・・・
あぁ、大丈夫、きっといい人達だ・・・――」
“レムリア”は薄く微笑む。
「フェナは・・・僕の娘は、今・・・?」
「きっと無事だ。あの少女は君の娘なのか。なるほど良く似ている」
「そうか・・・。可哀想な事を、僕は・・・」
「可哀想な事?」
彼は徐々に瞼を落としていく。
「僕が・・・死ねば、あの子は・・・解放される、だろう・・・。
あぁ、懐かしいな・・・。会いたかった・・・。一目でもいいから・・・」
「お、おい、姫さん、そいつ」
メノウが見やる場所、レムリアの腕が透けていた。
「・・・僕は、負けたんだ・・・。“僕”に・・・。
救ってくれた君なら、“僕”を止めてくれるだろうか・・・?」
「レムリア。君はどうして、あんな姿に・・・」
「醜い姿だったろう・・・。
僕は、一体どれだけの事を・・・――」
ジストの腕から重さが消える。
ゆっくりと目を閉じたレムリアは最期の囁きを漏らした。
「ただ、救いたかった・・・
それだけなんだ・・・
すまない、フェナ・・・――」
ジストの腕の中から光の粒子が舞いあがった。
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