木々が燃えたニオイが流れてくる。
焦げ臭さと、独特の甘い香り。吐き気を催すような。
集落は未だ燃え盛り、火の粉が風と共に流れてくる。
巨大なドラゴンに蹂躙された集落は見る影もなく、建ち並んでいたはずの家屋は倒壊して無残な姿だ。

大方の破壊衝動は発散しきったのか、赤鱗のドラゴンは動きが鈍い。
凶悪な歯が並んだ口から、炎の息が漏れていた。



「間近で見るとやっぱやばいよコレ・・・
俺燃やされたらさすがに復活できないよ?!」

「ではアンバーはサフィの護衛に徹したまえ。
メノウ、どうだ? あのドラゴンは」

「アカンな。ほんまにアカン。見た事ないわ、あんなデカブツ」

しかしそんな弱音とは裏腹に、彼は既に剣を構えている。

「焼け石に何とやらかもしれませんが、補助はしますので!
火傷に気をつけてくださいね!」

カイヤは術を詠唱し、前衛に立つ者に強化魔法をかける。

「ふん・・・。俺の前で炎など、ナメているとしか言えないな!」

コーネルが構えた剣が冷気を纏った。
――彼は水の属性を得意とする。目の前の巨体にうってつけだ。

「はははっ!! そうやっていつも調子に乗るのはコーネルの悪い癖だな!
行くぞ!!」

ジストの合図で一斉に飛び掛かる。





足下に突き付けられる剣撃に気が付いたそのドラゴンは、すぐさま立ち上がり、大きく息を吸い込む。
一瞬の溜めの後、業火のような灼熱の塊が吐き出された。

「わ、わ、わ、危ないっ!」

咄嗟にカルセが強風を召喚してドラゴンに叩きつける。
業火は吹き消され、ゴオオッと唸る風がへし折った木々の破片を赤鱗の体に叩きつけた。

「ナイスだ、カルセ!!
食らえ、ミストルテインの恨み――ッ!!!」

ジストの宝剣が煌めき、首元の赤鱗を穿つ。
確かな手ごたえと共に、ドラゴンのけたたましい悲鳴が上がった。
すぐさまドラゴンの顔がジストの方を向く。
目と目が合った瞬間、彼女はギャッと声を上げた。
ぐわっ、と巨大な口が空いたところに、メノウの大剣が突き刺さる。
喉の奥を貫くように、彼は渾身の力で大剣を押し込む。

熱気のこもった息と血を同時に吐き出すドラゴンは怯んでいた。
その屈強な脚を台に巨体へ駆け上がったコーネルが、冷気を纏った剣で禍々しい目を貫いた。


ギャアアア――・・・


赤い巨体は地響きと共に倒れ、そして動かなくなった。





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