教会に入ってすぐ、長椅子に年若い男女のアークエルフが座っていた。
煙で肺をやられたのか、男性の方はゲホゲホと咳込んでいる。
「あれ、人間の方・・・ですか?」
男性は驚いた風にこちらを見る。
プラチナブロンドの艶やかな長髪が目を引く。
どこか、覚えがあるような。
「君はアークエルフの集落の者か?
私はミストルテインの王子、ジストだ」
「な、なんと! ジスト殿下ですか。
ええと、僕はセレスっていいます。こちらは妹のセラです。共に、あの集落で生まれ育ちました。
・・・あ、すみません。セラは盲目なので、ご容赦を・・・」
虚空を見つめていたアークエルフの少女は、そっと微笑んで会釈した。
「ん、姫さん。セレスとセラって」
「・・・まさかエレスが言っていた2人か?!」
「えっ、兄をご存じなのですか?」
思わずセレスは立ち上がる。
「あ、兄は、兄は今・・・!」
思わずジストは目を逸らしてしまう。それがすべてを物語っていた。
セレスは静かに座りなおした。
「・・・いえ、大丈夫です。薄々勘付いてはおりました。
もう兄からの連絡が途絶えて数年、ですから・・・」
セレスの言葉を聞いたセラが悲しそうに俯く。
「兄は、セラの目を治すお金を稼ぐために1人で集落を出ました。
アークエルフは外に出ていく者を叱責します。
それでも、僕達は兄の帰りをずっと待っていて・・・
ですが、あろうことか、狂暴なドラゴンに集落ごと打ち滅ぼされてしまうなんて」
盲目の妹を守り抜くだけで手一杯だったのだろう。
セレスは辛そうに唇を噛んでいる。
まだ年若いこの弟妹に、エレスが機関に取り込まれていた話をするのは酷というもの。
ジストは、エレスが遺した最期の言葉だけを静かに伝えた。
「・・・はい。ありがとうございます。
僕達は一度も兄を疑った事はありません。愛されていると知っていたから。
今はただ、静かに眠れている事だけを祈ります・・・」
セラは手を組んだまま泣き崩れてしまった。
彼女の背中をセレスが優しく撫でる。
「で、どうすんだよあのワイルドなドラゴンは。
何が狙いか知らねーけど、あいつ放っておいたら森からランナウェイすんじゃね?」
「えぇ。しかしあのドラゴンは本当に強いんです。
アークエルフの精鋭が一丸となって立ち向かっても一瞬で蒸発してしまうくらいに」
「そのドラゴン、私達が鎮めて来よう」
ジストが堂々と言い放った言葉に、後ろにいた仲間達は目を点にする。
「だ、大丈夫なんですかね?
だってアークエルフって揃いも揃って最高の術士だっていうし、そんな人たちが敵わない相手じゃボク達・・・」
「どちらにしろそんな危険な存在を我が国にのさばらせるわけにはいかない。
それに、ガーネットは先程『レッドドラゴン』と言ったな?
・・・もしかしたら、王都ミストルテインを襲った個体と同じかもしれない」
敵討ちだ、とジストはいつになく真面目な顔をしている。
「別に止めやしねーけど、サファイアに怪我させんなよ。
可愛いマイシスターに何かあったらビッグバンのお見舞いだぜ?」
「だ、大丈夫だから、お姉ちゃん・・・!
行きましょう、ジストさん」
一行は教会を後にし、森へと向かった。
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