試験飛行を終えて地上に戻れば、ざわざわと妙な空気だ。
戻ってきた一行のもとへ、イアスが小走りでやってくる。

「あぁ、ジストさん達。
実はクレイズさんが倒れてしまって」

「なにっ?!」

空から戻ってきてまだ足が震えていたカイヤは瞬時に硬直する。

「た、倒れたって、博士が?!」

「えぇ。それでその、症状がまるで・・・――」

言い終わらないうちに、カイヤは真っ先に教会へと走る。





奥の部屋でベッドを囲むグレンとアンリが、やってきたカイヤを見て悲痛な表情を浮かべる。

「は、博士どうしちゃったんです?
さっきまで普通で・・・」

ベッドで昏々と眠るクレイズは答えない。

「カイヤさん、落ち着いて聞いてください。
先輩は重要な事をずっと隠していたんです」

「隠し事ですか・・・?」

「はい。
・・・先輩は、いつの間にか“例の薬”の犠牲になっていたんです」

カイヤの顔から目に見えて血の気が引く。

「それってアレだろ?
ダインスレフの機関がコソコソ仕込んでた毒だっていう」

「えぇ。
でも先輩が自ら服用するとは思えないですし、何者かの仕業で。
タイミングは、・・・恐らくは先輩が連れ去られた時でしょう」

「ま、待ってください、アンリ先生!
それって、まだ治療薬がなくって・・・」

「・・・はい。おかしいと思ってはいたんです。
ここ最近の先輩は、何かに焦っているかのように研究三昧でしたから。
そして、その研究対象は多分・・・」

「解毒薬、ってか」

はぁ、とグレンは長く深いため息を吐く。

「こいつマジで馬鹿だぜ。
なんで1人で抱え込んでたんだ」

いつもはふざけた調子のグレンでさえ、衝撃のあまり軽口が消えている。

「幸い、と言えるのかはわかりませんが・・・
錯乱症状がないところを見ると、先輩は薬に適した体質のようです。
まぁそれでも、もう一度目を覚ますかは、わからないのですが・・・」

「そんなっ・・・!!」

カイヤはベッドに縋りつく。
遅れてやってきたジストが、カイヤの様子を見て最悪の事態を察した。

「もう、手を回されていたというのか。
くっ・・・」

「姫様、ボク、ボク・・・っ!!」

溢れる涙が止まらない。

「ひどい、ゆるせないっ・・・
博士はボクの、ボクのお父さんなのにっ・・・!」

「嬢ちゃん、もっと言ってやれ。
クーはずっと、嬢ちゃんの父親になるのが夢だったんだからよ」

「お父さん、お父さん、・・・!!
ごめんなさい、ボクいつも、気付くの遅くて・・・――!!」

カイヤの呼びかけは届いているのだろうか。
クレイズは眠り続けたままだ。





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