憔悴しきったカイヤにかける言葉が見つからず、誰も彼もが口を閉ざす。
教会に戻ってきてから、カイヤはずっとクレイズの傍らに座って俯いていた。
せめて何か食べるようにと促しても、彼女は弱々しく首を横に振るだけ。
「・・・アンリ。クレイズを救う方法はないのだろうか」
遠巻きにカイヤの姿を見つめていたジストが問いかける。
同じようにカイヤの様子を気にしていたアンリは小さく答えた。
「ない、ですね。今は」
「今は?」
彼は頷く。
「先輩の研究の一片でもわかれば、僕が引き継いで研究をする事もできます、が・・・
いかんせん、僕は先輩ほど才能があるわけではないので、解毒剤の完成まで何年かかるか・・・。
その時まで先輩が持ちこたえられる保証も、どこにもないわけですし・・・」
「・・・口惜しい。
クレイズには何度も世話になった。
なのに、私には何も出来ないなど・・・」
「あるじゃないですか、1つだけ」
ジストはアンリの顔を見上げる。
「貴女が旅を全うする事。それは先輩が最も望んでいるものなはず。
先輩は、貴女に託しているんです。行く末を」
彼自身も、その胸の内は辛いに違いない。
それでもジストを前へ向かせようとする。
「貴女は貴女の道を行ってください。
先輩についての案件は、しがない学者風情がやる事ですから」
自分の道を行け。
かつてクレイズもそう言っていた。
自分が信じる道を、脇目もふらず、真っ直ぐと。
「カイヤさん」
静かな部屋にアンリの声が響く。
カイヤは、ゆらりと彼の方を見る。
「先輩を助けたいですか?」
「当たり前じゃないですか・・・。
だってまだ、博士には言いたい事も聞きたい事も、たくさん・・・」
「僕は覚悟を決めましたよ」
アンリは微笑む。
「貴女が戻るまで、絶対に先輩を死なせません。
ですから、貴女はしたい事をするといい。
一緒に先輩を救いましょう」
「アンリ、せんせ・・・」
枯れたと思っていた涙がまた溢れてくる。
それをごしごしと拭い去り、カイヤは立ち上がる。
「博士、ボク、博士をこんな目に合わせた人、ブッ飛ばしてきます!!
だから、ボクが帰ってくるまで死んじゃダメですよ!!
いや、絶対助けますから!! 死なせませんからっ!!」
言うだけ言うと、その勢いで彼女はアンリに抱きつく。
「ボクのお父さんの事、お願いします。
必ず、すぐ戻ります」
「えぇ。こちらは任せてください。
・・・いってらっしゃい」
振り返らず、カイヤは部屋から駆けだした。
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