豪勢な食事が並び、それぞれが好きな物を好きなだけ食らう。
こちらに来てからは禁酒状態だったが、久しぶりに数多くの酒が振る舞われる。

「肉に、魚に、野菜・・・。
こんなにたくさん、見た事ないですよボク。
なんかすごい贅沢しちゃって、一体どこからこんなに?」

「元々はサフィの発案だったのだが、計画していくうちにどんどん派手になってな。
中でも一番乗り気だったのはコーネルだったか?
あの数の酒と食材を急遽揃えたのは君だったな?」

隣でグラスを傾けていたコーネルが噴き出す。

「きっ貴様!!
それを言うなとあれほど・・・っ!!」

「あーあー、何も聞こえないな私は」

涼しい顔でジストはワインを飲み干す。

「王子がボクに?」

「んなわけあるか・・・っ!
クロラとリシアが勝手に手配しただけであって・・・」

聞き耳を立てていたメノウがカイヤに耳打ちする。

「あいつ、教皇パシってんで。
出来得る限りの食材を今すぐ寄越せー言うてな。くくっ」

「へぇ・・・」

ジュースを飲みつつカイヤはニヤニヤと笑うのを抑えられないでいた。
思い返せば、カイヤが1人鬱屈としていたところを見ていたのは彼だけだ。
彼なりの労いの気持ちなのだろう。

「ね、メノウさんが作った料理はどれですか?」

「あの辺に並んどるで」

「やったー!
いただいてきますっ!!」

先程までは渋い顔をしていたカイヤだが、その場の空気に流されるままはしゃいでいる。
普段大人ぶっているせいか、彼女の年相応の姿を見るのは新鮮だ。



そんな娘の姿を一歩ひいたところで目を細めながら見つめる姿。

「先輩、そんな端にいなくても」

「いいんだよ。この場はカイヤ君を称える場なんだから」

「グレンさんとか、思いっきりターフェイさんを口説きに行ってますけど・・・」

「・・・彼はもう、発情期の犬かなんかだと思っておけばいいさ・・・」

くい、とクレイズはグラスを傾ける。

「アンリ君、君はいつから学者になりたいと思った?」

はて、とアンリは首を傾げる。

「僕の場合はいつの間にか学者になっていた、というところですかねぇ。
先輩は?」

「僕もそう。いつの間にかなってた。
・・・だから、カイヤ君には“志す”っていう工程を知ってほしかったんだ。
それがあれば、どんな時でも、立っていられる勇気になると思うから」

「ほぉー・・・。
だからカイヤさんをジストさんと一緒に行かせたんですか?」

「半分正解。もう半分は・・・
あの子を解放してあげたかったってところ」

「解放? 何からです?」

「強いて言うなら“僕から”、かな。
何も学者だけが正解の道ってわけじゃない。少し環境を変えれば別の自分が見えてくると思って。
あの子は昔から、僕への罪悪感で少しでも早く大人になろうと背伸びをしてきた。
だから、僕は今あんな風に子供らしく笑うあの子を見た事がない。
責められるべきは僕なのに、あの子は自分で自分を責め続けてきた。
僕はあの子の枷になっている。同時に、軸にもなっている。
僕無しでも“自分”を持っていられるように、・・・ね」

アンリは、薄く微笑むクレイズの横顔を見つめる。

「アンリ君って、僕の弟によく似てる。
楽しかったよ。一緒に同じ目標を持てて」

「そういえば、助手はしていましたけど、先輩と同じ研究ってした事なかったですね、僕。
僕も楽しかったですよ。久しぶりに童心に返ったような気分でね」

「君は優秀な助手君だ。カイヤ君の事も頼むよ」

軽く手を上げて、クレイズはその場から離れていく。

――何か、何かが引っ掛かる。



「・・・先輩、今度は何を隠してるんです・・・?」

無表情だったアンリは、小さく唇を噛んだ。




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