幾度目かの日暮れ。
教会の厨房は甘い香りに包まれていた。
「お、いい匂い!
サフィ、何作ってるの?」
「ふふ。ささやかながらお祝いですよ」
彼女の手元には大きなスポンジケーキが置いてある。
「飛空艇、明日からテスト飛行だそうです。
ですので、ここまで頑張った皆さんにせめてもの気持ちで。
カルル村の住人の方にたくさんの果物をいただいたので、それを使ってケーキにしようと」
「すごーい!! サフィの手作りケーキ?!
いいなぁ、皆大喜びだよきっと!」
「もちろんアンバーさんも召し上がってくださいね。
ずっと私のお手伝いをしてくださっていましたから」
「マジ?!
やー、生きててよかった!」
死んでるけど、と彼は笑う。
「サフィも疲れたでしょ?
毎日毎日、何十人って人の分の食事を作ってたしさ」
「私が今出来る事ってこれくらいだから」
彼女は微笑む。
「皆、頑張ってました。大勢の人が1つになって、この世界のために。
私、ジストさんとここまで来れて本当によかったです。
ラチアに教えてあげたいくらい」
それでも、瑠璃色の瞳が潤む。
「何ででしょう。涙が時々浮かんでくるのです。
ジストさんの事を考えると」
「サフィ、それは・・・」
自分の本当の故郷ではないのに、先頭に立って皆を率いている。
彼女の本心が窺い知れず、どんどん不安になっていく。
「ジストさんは、一番頑張った人だから。
だから、どうしても、旅の終わりは笑顔がいい。
ジストさんと、メノウさんと、カイヤさんと、カルセさんと、王子様と、あなたと私。できればアクロさんも。
皆揃って笑いたいんです。なのに・・・」
コーネルとアクロ、
サフィとラチア、
――ジストとカルセドニー。
「ここに戻ってきてから、希望はどんどん膨らむ。
でも、同じくらい、不安が押し寄せてくるんです。
実感がないけど、でも確かに存在する可能性が、私の心のどこかに住みついていて」
怖いんです、と彼女は俯く。
「・・・いけませんよね。私は聖女、希望を持って立っていなければいけない存在なのに」
「俺だって同じさ。君と同じ不安を抱えてここにいる。
君や俺だけじゃない、きっとメノウさんも王子もカイヤも、同じ事を思ってるはず。
・・・もしかしたら、ジストとカルセもそうなのかもしれない」
「どうして、2人いたらダメなのでしょうか。
この世界は・・・どういう選択をするのでしょうか・・・」
不安は募るばかり。
それでも今は下を向いてはいられない。
「アンバーさん、ジストさんに伝えてきてほしいんです。
少しだけパーティーをしませんか、と」
「・・・わかった」
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