夜明けと共に作業を開始し、日が暮れるまで働き続ける。
格納庫には作業者達の声が飛び交っていた。
一方、図面と向き合う側は昼も夜も関係なく机を囲んでいた。
3日目にはさすがのカイヤも限界を訴えてソファに身を投げて束の間の睡眠をとる。
「ちょっと無理させすぎたかな。
僕らの感覚でいるとつい、ね」
「それにしてもすごいですねぇカイヤさん。
ただの学生だった頃よりも発想が豊かというか、なんというか」
「学者はね、狭い部屋で閉じこもって文字を見つめているだけじゃなれないものなのさ」
クレイズは何杯目かもわからないコーヒーを流し込んだ。
「よく言うぜ。クーだって似たようなもんじゃねぇか」
「僕のは隠居なの。すべてを見てきた後だからこそさ」
雑誌を読みつつ気紛れに図案へ口を出すグレンはケタケタと笑う。
「にしても冗談きっついぜ、クーちゃんよ。
異世界から来た、なんてどこの不思議ちゃんだよ。
ブッ飛んでやがるぜ」
「どうとでも言えば?
もっとブッ飛んでる奴だっているじゃない」
「クハハッ!
だから面白いんだよなぁお前。
オマケに一方通行ってオチがついてやがる。
どうすんだよ。もう十何年帰ってないんだろ?」
「別に。帰ったところで化石扱いされるだけだもの」
目の前に異世界からやってきた人物がいる・・・――
にわかには信じ難いが、冗談でもないようだ。
そうとも知らずに長い間助手をしていたなんて、と、アンリは気が遠くなるような思いも否めない。
「先輩がいた世界、随分と先進的なんですねぇ。
まず空を飛ぶ発想に至るまで、この世界であと何年先か・・・」
「いやぁ、これは僕らの世界でも画期的な発想さ。
しかし、王女君には一本とられたな。まさか逆に僕らの世界を利用しようと考えるとはね」
「って事は、カイヤさんは先輩達の世界を見てきた、ってわけですか」
「見たんだろうとも。穢れきった真っ黒な世界をね。
・・・あるいは、僕が知るより更に破滅に近づいた世界だったかもしれない」
「考えたくもねぇな。女まで汚れてそうだぜ」
今日も夜が更ける。
カイヤ達が持ち帰った設計図は、徐々にこの世界に適応した姿の図へと変化していく。
「もうすぐ図案が出来上がる。
後は全力で組み立てるだけだ」
「いよいよですか」
「うん。やっとだよ。
心残りだったんだ、“コレ”」
古めかしい図の筆跡を指でなぞる。
懐かしい、愛しい面影。
――ケイト。君が夢見た空が、もうすぐ手に入るよ。
-312-
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