田舎村が未だかつてないほどの賑やかさに包まれている。



何事かと宿から出たジストは、大勢の馴染み顔に目を丸くした。

「ここで合っていたか。
ダークエルフはブランディア地帯から出た事がない。
この降り積もった白いものがユキというものか?」

ターフェイだ。
後ろにぞろぞろと男性の同族を引き連れている。
その後ろから、人間の男性が1人、小走りでやってきた。

「ジスト・・・さん。ゼノイ、です。ティルバ様の命で来ました。
なんでも人の手が欲しいとかっていうんで、とりあえずダークエルフを」

「あ、ありがとう!!
まさかこんなに大勢で来てくれるとは・・・!!」

「当然だ。我々ダークエルフには義理がある。困っていると聞けばどこへでも馳せ参じよう。
目下のところ必要となるであろう鉄は大量に持ってきた」

大きな荷車が数台。このすべてに鉄を積んでいるのだろうか。

「なんや、ずいぶん来たな」

「あ、隊長」

煙草を吹かしながらのんびり歩いてきたメノウにジストは抱きつく。

「ありがとう!
君のおかげで素晴らしい助力を得られる!!」

「ちゃうわ。
全部姫さんの人脈。こんだけの連中に好かれとるってこった」

「人脈・・・」

「おーい、こっちもいるぞぉ」

遅れてやってきたのは若い人間達の集団。

「フェルドか!」

「久しぶりだな、ジスト。それにメノウも。
傭兵を何人か連れてきた。馬鹿ばっかりだが力仕事は任せておけ。
アンバーは相変わらずか?」

「あぁ。教会の方にいるぞ。
ひとまず、全員そっちへ向かってくれ。皆の拠点はそこになる」

ぞろぞろと大勢が教会へ向かう。
見た事もない集団に道行くカルル村の住人は驚いているが、ジスト達を見つけるなり、こちらへやってくる。

「あぁ、あなた様は、いつぞや出会った方!
教皇様の勅命でいらしたんですって?」

小さな子の手をひく女性は微笑む。
以前、この村に初めて着いた時に出会ったあの女性のようだ。
あの時熱にうなされていた子供はすっかり元気そうである。

「これ、少ないですけれど気持ちです。皆さんで召し上がってくださいな」

そう言って持っていた籠をジストに手渡す。
中には果物が詰まっていた。
雪国にとっては、南国でとれる果物は究極の嗜好品だ。
お世辞にも裕福とはいえないここの住人が大量に買い込むものでもない。

「い、いいのか、こんなにたくさん・・・」

「はい!
少しでもお力添えできれば」

「ありがとう。本当にありがとう・・・」

王城で育ったジストにとっては、果物など当たり前のもの。
それでも、ここまでの道のりで、差し出されたこの気持ちの価値を知ったような気がする。



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