日が暮れ、夜が更け、1日が終わっていく。

格納庫の船の横に添える脚立に乗ったカイヤは、未だにペンを走らせていた。

「おい小娘・・・もう真夜中だぞ。
気持ちはわからなくもないが、何もそこまで」

「王子は戻って休んでいていいですよ。
ボクはまだやる事がたくさんあるので。
・・・というか、もう何時間も前からそう言ってるじゃないですか」

「馬鹿か。貴様1人残して呑気に帰ってみろ。ジストに張り倒される」

彼は欠伸を噛み殺しつつ、手に持つランタンでカイヤの手元を照らす。

「ふうん。王子みたいな人でも、ボクみたいな奴を1人置いて帰る事はしないんですね。意外です」

「子供を放って帰れないだろう、普通は」

「ボク子供じゃないですし。
王子って今一歩足りないんですよね。女の子を1人に出来ない!とかいう切り返しができたらモテると思いますよ」

「そういう事はゾンビに言わせておけ」

とても静かな夜。
カチ、カチ、カチ、とカイヤのコートの中の懐中時計が時を刻む音が聞こえてくる。

「王子って、どうして姫様と一緒に旅したいって思うんですか?」

「なんだ急に」

「ちょっと気になったので」

彼は首を傾ける。
その仕草につられて、彼のピアスが揺れた。

「どうせ貴様は笑うだろうが、ごく単純な理由だ。
俺はジストを守ると決めた。それだけだ。他に意味はない」

「アクロさんみたいな事を言うんですね」

「否定はしない。あいつは俺だ。
認めたくはなかったが、あいつの気持ちは痛いほどわかるというのもまた事実。
俺がこのまま突っ走れば、きっとあいつと同じ存在になるんだろう」

「アクロさんは、王子の未来の姿って事ですか?」

「そうかもしれない。
・・・が、“何か違う”と思う部分もある」

それは彼自身にしかわからないのだろう。
カイヤはそれ以上聞かなかった。

「・・・ボクはね、正直姫様がどうこうというよりも、こうやって自分が必要とされる事が目的なんです。
可愛げがないかもしれませんね。だって、ボク以外の皆はきっと、純粋に姫様と行きたいって気持ちで来ているのだろうから」

ペン先が走る音が絶え間なく聞こえる。

「それでも、やっぱり力不足だなって思っちゃうんです。
今だって、もっと要領よくできる道があるはずなのに・・・」

彼女が思い詰めてこの夜更けまで作業をしていた事にようやく気が付いた。

「早く設計図をまとめなきゃいけないのに。焦っておかしくなりそうなんです。
でもそんな時間ないし、早くしないとせっかく来てくれる作業者にも申し訳ないし・・・」

泣きそうな横顔をしている。
横目でそれを見ていたコーネルは、突然ランタンを下ろす。

「あ、ちょっと、暗・・・」

「小娘。今日はもう時間切れだ。帰って寝ろ。
まだ猶予はある。焦るとわかるものもわからなくなるぞ。
焦っている自覚があるうちにやめておけ」

やっとペンの音が止まる。

「一生の不覚です。王子なんかに諭されるほど急いていたなんて」

「そういうところが可愛げがないっていうんだ。阿呆」

2人は格納庫を後にした。



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