「ジスト。ちょっといいかな」
カルセに声をかけられ、ジストは手を止める。
「どうしたのだ?」
「手紙・・・。それユーディアへの、だよね?」
「そうだ。なるべく彼女を怖がらせない範囲で危機を伝えるのが難しくてな・・・」
彼女の手元には、丸められた紙がいくつか転がっている。
「ねぇ、ユーディアへの封筒に僕の手紙も入れてもらっていいかな・・・?」
彼は小さく折りたたんだ便箋を持っていた。
「もちろんだ。きっとその方がユーディアも嬉しいだろう。
彼女は君にとても懐いていたからな!」
快く受け取ってくれたジストに、カルセは微笑む。
そういえば、最近の彼には少し表情が増えてきたような気がする。
「もしも飛空艇ができたら、ユーディアを乗せてあげたいな。
・・・って、遊びじゃないから駄目かな」
「そんな事はないさ。彼女はフロームンドから出た事がない。
世界はこんなに広いのだと見せてやれたら、さぞ喜ぶだろうな!」
「ありがとう。ジストは優しいね」
「はっはっは!
そんな大したものでもないさ」
ペン先にインクをつけつつ、彼女は頬杖をつく。
「この世界は素晴らしい。
当然、善もあれば悪もある。そういう旅だった。
・・・が、それらすべてをひっくるめて、私はここが好きだ。
愛する人々には、ずっと笑顔でいてほしい。
私1人が出来る事は、そう多くはないがな」
カルセは俯く。
「・・・ジスト。1つ聞いておきたいことがあって」
「なんだね?」
躊躇いがちに、彼は言葉を紡ぐ。
「並行人格の、話。
僕がここにいる限り、君はここにはいられない。
君は、・・・“君自身”は、どうしたい?」
ひゅっ、とジストから表情が消える。
「僕は、思うんだ。
きっとこの世界が必要とするのは、ジストの方なんじゃないかなって」
「カルセ、それは・・・」
くる、と彼は背を向ける。
「僕は大丈夫だから。
ジスト、君の答えを、僕は受け入れる。
僕もこの世界は好き。でも、もし君の妨げになるのだとしたら、僕は・・・――」
ふるふると頭を振り、ごめんねと呟いた彼は部屋から出て行ってしまった。
同一は、同時に存在できない。
それが、“理”なのだから。
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