内部紛争で荒れていた聖都は、今はすっかり元通りになっていた。
前教皇の喪が明け、新教皇の誕生でささやかながら祝いの飾りが街路樹を彩る。

徐々に戻ってきた観光客を受け入れるかのように、街の宿からは明るい光が漏れている。
外は肌が割れそうなほど寒い。適当な宿をとり、荷を下ろす。
暖炉の火が心地良い。

「やっぱり落ち着きますね。
綺麗な空気、暖かい火、星空・・・」

サフィは嬉しそうに、暖炉に手をかざした。
どうか幸せに、と彼女の幸を願ったラチアを思い出し、アンバーは微笑ましく彼女を見つめている。
素朴な幸せをようやく実感する。



全員それなりに体を温め、暖炉の前で設計図を囲んで座る。

「さて、皆。戻ってきて早々すまないが、この後はただ進むのみだ。
ひとまず私はユーディアに手紙を出そうと思う。彼女の無事を確認せねば。
それから飛空艇の準備だ。できれば最短で仕上げたい。
幸運にも、我々はアルマツィアの近くに戻ってこられた。丁度いい」

「幸運? ここに来たことがか?」

腕を組んで問うコーネルに、ジストが向けた決まり顔。

「タカるぞ、クロラに!!」

それを聞いたアンバーはケラケラと笑う。

「さっすがジスト!!
搾れるだけ搾るってわけか!!
いいじゃんいいじゃん、どうせ金ならたんまり持ってるだろうし!!」

「おま・・・
少しは俺の立場を考えろ」

「なぁに、これくらいで激昂するような器ではないだろう、クロラは」

「それはそうかもしれないが、だな・・・」

「君は本当にアルマツィア相手には弱腰だな。
君が王になった時が思いやられるぞ」

「余計なお世話だ」

ぷい、と彼は顔を背けてしまう。



「姫様、飛空艇の建設に使える時間はどのくらいですか?」

「むしろどのくらいで出来そうな代物なのだ、これは?」

カイヤは唸る。

「1から作るとなると数か月、いや年単位になると思います。
資金の工面はなんとかなるかもしれませんが、人材の確保が心配です。
なんせこの世界じゃ誰も作った事がない機械ですから」

「ううむ。もはやそう長くも待っていられまい。
我々が異世界に行っている間にも、この世界には等しく時間が流れているはず。
指輪の確保も早急に行わねば」

「ここから徒歩でミストルテインに向かうとしたら、1ヶ月は見ておきたいよね。
それより早く辿り着ければいいわけで・・・」

指折り数えるアンバーだが、小難しい計算は彼の管轄外だ。
消えかけの設計図を手に取り、じっと見つめるメノウの視線。

「・・・なぁ、こいつって船に羽生えたようなもんなんだよな?」

確認すると、カイヤは頷く。

「簡単に言っちゃえばそんな感じですね」

「って事は、もういっそ今ある船に羽つければええんちゃうの?」

はっ、と息を飲む。

「それです、それですよメノウさん!
アルマツィアに余った船があれば・・・」

「いや。この国はほとんど内陸だ。船には予算をあまり割いていないはず。
余るほどの船があるかどうか・・・」

チラ、とジストが向いた視線に合わせ、皆一斉にコーネルを見る。

「・・・なんだ?」

「海軍、漁船、貿易船・・・。船といえばカレイドヴルフの専売特許・・・ではないか?」

ぐ、と彼の表情が引きつる。

「コーネルの国の船をわけてもらうってこと?」

カルセが確認すれば、うんうんとジストは頷く。

「1隻くらいもらえないだろうか?! 型落ちの旧型でも構わないのだが!!」

「ばっ、馬鹿言え!!
よくわからない改造をされるとわかっていて、父上が船を譲ってくださるとでも?!」

「頼むコーネル!!
君が頼りなのだよ!!」

「しかし・・・っ!!」

抵抗しようとするが、目の前で手を合わせるジストに返す言葉が見つからない。
いつも振り回されてきたが、まともに頭を下げられたのは初めて――のような気がする。

「・・・わ、わかった。わかったから顔を上げろ」

「本当か?!」

ぱあっとジストの笑顔が輝く。

「あぁ。だが保証はないぞ。事情は伝えるが、父上がそれに応じるかは俺にもわからない。
・・・説得は、善処する」

「ありがとうっ!! 友よっ!!」

ばっ、と飛びついて抱きしめられ、コーネルは目を回す。



「・・・なんだかんだでジストにも弱いよね、王子って」

忍び笑いが漏れる。



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