ガコン・・・
扉の内鍵が外れる音がした。
そのまま、ギギギ、とゆっくり扉が開く。
「・・・そんな・・・」
コーネルは思わず嘆くような呟きを漏らす。
黙って見つめていたアクロは、ふう、と息を吐いた。
「そういう事か。
道理でこの世界に“お前がいなかった”わけだ」
ジストの背は微動だにしない。
アクロの言葉が華奢な後ろ姿に吸い込まれていく。
「俺が初めてこの世界に来た時、例の如くまずは“お前”を探した。
だがどこにもいなかった。
聞けば、俺がここへ辿り着いた時にはもう、お前は死んだ事になっていた。
そんな歴史は初めてだった。
その時は、それも可能性のうちだと解釈して、すぐに世界を移動した。
移動した先の世界で、俺は“お前”という存在2人に出会ったわけだ。
“ここ”と“あそこ”は俺が知る正しい歴史の在り方から逸脱している。
世界を渡るのは俺だけだとタカを括っていた結果がこうなったわけだ」
「嘘だろう・・・?
だって、ジストは、“俺達”は、ずっと・・・」
コーネルの声がわずかに震える。
「目の前で証明されただろう。
嘘も何もあるか」
幼い頃から共にいた相手。
誰よりも世界を救おうと意気込んでいたのに。
こんな壊れかけの世界が、本当の故郷だったなんて。
「・・・姫さん、もう無理すんな。
お前は何も悪くない」
「ふふ。今更何を言うか」
くるり、とジストは振り返った。
――いつも通りの勝気な笑顔。
「言っただろう?
私の意志は何も変わらない。
さぁ、ついてきたまえ、皆!! 成すべき事は決まっている!!」
つかつかと宝物庫の内部へと消えていく後ろ姿。
薄ら寒さを感じるほど、一途で、前向きで、清廉潔白な。
彼女自身の心は、一体どこにあるのだろうか。
宝物庫には金銀といった希少な鉱石、今はもうこの世界では採れない宝石の数々が安置されていた。
この世界の誰かが見たら、喉から手が出るほど欲しがる財宝の山だ。
元の世界へ持ち帰ったとしても、かなりの金額になると思われる。
それでも、用があるのは紙切れ1枚のみ。
書物や書類の山を掻き分け、目的のものを探す。
歴史書や技術書など、いちいちカイヤの手を止めるような貴重な書物も多い。
「ジスト。これとか・・・そうかな?」
カルセが探し当てた1枚の古ぼけた紙。古すぎて黄ばんでいる。
だがよくよく目を凝らせば、翼を広げたような船の図形が見えてくる。
「これか?!」
「あったんですか?!」
すかさずカイヤに手渡して鑑定を求める。
鞄から虫眼鏡を取り出し、カイヤはじっくりと消えかけの線を目で追う。
「思ったより損傷がひどいですね・・・。
でも頑張れば読めそうな感じです。きっとこれがそのはず!
“飛空艇 改訂版β”って記されてますし」
「よし、それを持ち帰ろう!
誰かにここを見られたらまずい。すぐに立ち去るぞ!!」
入口を警戒しつつ宝物庫から出て、しっかりと施錠する。
急いで階段を駆け上がり、地上が見えてきたその時。
ズラリ、と光の目玉が覗きこんできた。
-300-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved