レーヴァテイン王都の前で降りたのはジスト達だけだった。
18年前に滅びた国に用がある者などそうそういない。
静まり返り、なんの生き物の影もない。
灰を被った地面にうっすらと浮かぶ石造りの道を辿っていくと、もはやただの瓦礫の山と化した王城の前へと至る。
「うっわ、ミストルテインより酷いね。どうしてここの人達って潰し合うんだろ」
「限られた資源の奪い合いだ。
石炭1つを巡って戦争が起きる。この世界はそういう状態だ」
アクロはそう言って遠い目をする。
「それで、宝物庫に行くんだったか?
城がこの有様だ。そう時間もかからず見つけられるだろう」
ジスト達は手分けして瓦礫を掘り起こす。
地下へ至る階段を見つけ、一行はそこに集まる。
「隠し階段になっていたようだ。降りてみよう!」
ゆっくりと地下空間へ吸い込まれていく。
この城も、ミストルテインとは違う技術で作り上げられたのだろう。
長い階段の先に、広々とした地下室が設けられていた。
当たり前だが、扉には施錠されている。
外の戦火の影響は受けておらず、つやつやとした大理石で隙間なく壁が造られている。
「で、どうやって開けるんだ?」
コーネルが尋ねると、ジストが一歩前に出た。
「皆、心して聞いてくれ。
今から私はこの宝物庫の扉に自分の血を捧げる」
しん、と沈黙する。
「つまり、だ。
この扉がそれで開いたのならば、私はレーヴァテインの王族の血を継ぐ者、という証明になってしまう」
聞いていた全員の目が丸くなる。
「それって・・・
じゃあ姫さん、まさか・・・」
「そう、そのまさかだ。
私は“カルセドニーの並行人格”。
・・・“この世界の人間”という事になる。
君達とは違う世界の人間、だ」
「ジスト・・・?!
一体いつから、お前・・・!」
「あくまでも可能性というだけだ。
だがもし、18年前にレーヴァテインが滅び、当時赤子だった私がレムリアに利用されたとしたら?
カルセと瓜二つの私だ。利用しない手がないだろう?」
ジストは手袋を外す。
宝物庫の鍵から突き出す鋭利な棘に、親指をあてがう。
「ジスト」
カルセが悲痛そうに名前を呼ぶ。
「案ずるな。だからと言って私の意志は何も変わらない。
さぁ、証明して見せたまえ、私の血を!!」
ぐっ、と親指を押し込む。
赤い血が棘を伝い、鍵の文様に流れていく。
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