大陸の西の末端に位置する国、ガンディーヴァ。
ジスト達の世界で言うダインスレフと同じ位置にあるこの国が、この世界を滅びの手前へと至らせた元凶とも言える。
この街の空気はより一層淀んでおり、視界すら悪い程だ。
晴れない黒い霧が漂っているように思えるが、その原因はアクロが指差すところにあった。
「“汽車”だ。石炭を燃料にして遠距離の場所と場所を繋ぐ、この世界における移動手段。
とはいえ、もうこの世界の石炭の埋蔵量はごくわずか。
だから1日に数回往復するのみだ」
ポーウ、と沸騰するような音を立てて、煙突から黒い煙を吐き出す巨大な箱のような機械。
ガタンゴトンと重い音を鳴らしながら、決められた道の上を走り去っていく。
この機械が吐き出した煙が、この街を漂っているらしい。
「す、すごい代物だな・・・。
あれがあれば転移魔法が使えない者でも信じられない速さで遠くまで移動できるということか・・・」
「そうだな。そもそもこの機械化というものは、“魔力なしでいかに楽をするか”という発想が高じた結果。
どの世界でも、人が人である限りは免れない行く末だ」
もう飽きるほど見てきた、アクロはそんな目をしている。
「こんなものに目を奪われている暇はないぞ。
ジスト、次はどこへ向かう?」
「う、うむ。ここにはダインスレフにあったような医療機関はあるのだろうか?
そこに行けば、全ての発端がわかるかもしれない」
「姫さん、あれやない?
あの、でかい建物」
メノウが見つけたのは、地上何階建てかというほど大きな施設だった。
少し小高い丘の上にあるその施設に足を踏み入れ、思わず委縮する。
人の声は一切聞こえず、事務的に目的を遂行する研究者達で溢れかえっていたからだ。
「来訪の方ですか?
ご用件をどうぞ」
受付係の冷たい雰囲気の女性に尋ねられ、ジストは上手い返しに困る。
そんな彼女の前に割り込むアクロが告げた。
「オズとリアンの研究室を探している」
「オズ・フィンスターニス、リアン・ライゼの2名は只今不在でございます」
「ではそいつらに近しい人物のところへ通せ」
「どのようなご用件でしょうか」
「“トナリから来た”と伝えろ。それで通じるはずだ」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付係は手元の四角い機械の数字を押し、取り付けられていた手のひら大のものに向かって誰かに呼びかける。
それを今度は耳に当てると、何かを聞き取ったのか相槌を打って一連の流れを終える。
ジスト達の世界では使える者が限られている、離れた者同士が会話を交わす“伝導”の魔法を肩代わりする機械の様だ。
「地下1階へどうぞ。アデュラリア・ヴァイスという人物を訪ねて下さい」
単調に行き先を案内されてから、ジスト達は地下への階段へ向かう。
「アクロ、さっきのはどういう意味だ?」
「“トナリ”の事か?
奴らが使う合言葉みたいなものだ。隣の世界、つまりお前達の世界を差す」
コツコツコツ、と階段を下りると、静かな廊下が奥へ向かって伸びている。
部屋の数は多くないようで、ドアの近くにはそこに所属する研究員の名が記されている。
「アデュラリア・ヴァイス・・・。
ここか」
一度深呼吸してからノックをする。
どうぞ、と男性の声がした。
扉を開けると、書類を眺めているまだ年若そうな男性と、サフィほどの年の少女がそこにいた。
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