刺さるような冷気と、剣呑とした雰囲気。
温度を感じないはずの肌に、言い様のない寒気が走る。
彼らは知っている。ここが一体何処なのか。



「アンバーさん・・・、ここは」

「どう見てもアルマツィア・・・なんだけど、さすがにここまで物騒な姿は俺も見た事ないね。
ジスト達とはぐれちゃったみたいだけど、俺達本当に別の世界に来ちゃったってわけか」

国壁から顔を出す、無数の黒い穴。
ここまで強固な守りになっていれば、もはやここを落とそうという気すら削がれてしまうほど。
あの銀世界に覆われていた神聖な聖都は、鉛臭い鉄の都となっていた。
もしもアルマツィアが信仰よりも技術をとったなら、きっとこんな姿になるだろう。
荘厳な宮殿は、遠巻きに見てもここでは要塞に変貌している。

「もしかしたらアンバーさんは怒る、かもしれませんが・・・
私、この街を少し見てみたい、です」

「なんでまた?
見るからにヤバそうじゃん。無傷じゃ済まないって!」

「それでも・・・誰かに呼ばれている、気がするんです。
なんとなく引きつけられる、不思議な感覚で」

サフィはじっと要塞を見つめている。
彼女が自分から意見を言うのは珍しい、というのはアンバーも十分承知しているが、さすがに見知らぬ地で虎穴に入る勇気が湧かない。

「・・・せめてジスト達と合流してからにしない?」

「わかってはいるのです。けれど、どうしても。
今ここで立ち去ってしまうと、この感覚の正体がわからなくなってしまいそうで・・・」

とても曖昧な説得だが、サフィ自身も自分が感じるものを形容する言葉を持ち合わせていないようだ。
うーん、と唸っていたアンバーだが、折れて頷いた。

「なるべく慎重にね。俺も出来るだけ警戒するけど」

「はい! ありがとうございます」

何かに呼ばれるかのように、ごく自然にサフィの足が向く。
迷いなく進んでいく彼女の背をアンバーは追った。




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