この世界の人々が見上げる事をやめた空。
どこまでも続く黒い雲は、心に蓋をするかのように光を塞ぐ。

「・・・これが、博士が見ていた空・・・」

荒野に立ち尽くす3人。
カイヤは思わず懐中時計を握りしめる。
仲間達をここへ誘ったその時計は、今はただ黙々と時を刻んでいるだけ。

「どうしましょう。
ミストルテインで集めた魔力は片道分だったみたいです・・・」

元の世界に帰るためには、再び膨大な魔力を集めなければならない。
いつもの彼女ならばその現実に気が付いた時点で大慌てだったが、今はただ、現実味のない淀んだ空気に茫然としていた。

「博士さん、言ってたよね。
あの人達が僕達の世界に渡る時にはホムンクルスみたいなものを使ったって。
この世界のどこかに、僕達が帰れるだけの魔力が手に入る場所、きっとあるんじゃないかな。
心配しなくても大丈夫だと思う」

こんな状況下でも、カルセは随分と落ち着いている。
それは彼が派手な感情表現を苦手とするせいか、そもそもの彼の人格なのかはわからない。
途方に暮れそうになっていたカイヤは、彼の態度に少し落ち着かされる。

「・・・で、王子。怪我はないですか?」

こちらに背を向けて遠くを見つめるコーネルの背中。
埃っぽい微風が彼の鮮やかな橙髪を撫でる。

「本当のところ、俺は別の世界なんてものは信じていなかった。
だが、来た以上は存在するのだろうな。知らずに生きる道もあったはずなのに」

彼が見つめる先。
コーネルの後ろから覗き見るように顔を出したカイヤとカルセは目を丸くする。

「ここ・・・カレイドヴルフ、ですか・・・?」

白亜の壁は浅黒く灰を被り、気品と威圧が同居していたはずの城門は崩れ落ちている。
一言で言えば廃墟だ。栄えたはずの王都は瓦礫の山となっていた。

「コーネル、これって・・・」

「“青の国が崩壊した”、そんな歴史があるのなら、きっとこんな光景だろう。
・・・惨いものだ」

戦乱に巻き込まれたのだろうか。
未だ燻る炎が見え隠れしている。

「・・・行くんですか?」

「あぁ。例え夢であろうと、俺はこの姿を見ておく必要がある。
・・・こんな歴史にしないために」

3人は静かに王都へ近づく。




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