鼻を突くような、煙たい臭い。
思わずむせてからハッと起き上がる。

「む、むむ?
私は・・・」

地面とは違う感触の上に座っている。
下敷きになっていたのはメノウだった。

「は、はは、君はやっぱりいついかなる時でも私を守ってくれるのだな!!
・・・って、おい、聞こえているのか?」

どうやら気絶しているようだ。
外れて転がっていた彼のサングラスを手に取り、肩を揺さぶる。

「う、う・・・」

呻いてから、彼はゆっくり目を開けた。

「気が付いたか!
・・・ここは一体どこだろうか?」

辺りを見回す。
枯れて久しい木々が寒々しく立ち尽くし、砂と泥だらけの地面には見慣れない貴金属の破片が埋まっている。
アクロの姿がない。

「アクロ?」

呼びかけてしばらく待っていると、どこからか足音が聞こえてきた。

「・・・無事だったか、ジスト。
どうやら全員散り散りになったようだ。
こんなに大勢で飛んだのは初めてだったからな・・・
衝撃で、他の奴らとはぐれてしまったらしい」

「皆は無事だろうか?!」

「腐ってもお前の仲間達なんだろう?
・・・きっと大丈夫だ。
少なくともコーネルは無事だな。頭痛がする」

「そ、そうか」

倒れていたメノウが起き上がるのを支えてやると、彼はくらくらと目を回しつつ周辺を見る。

「・・・ほんまに飛んだんか、これ。
どの辺や?」

「お前達の世界で言う、赤の国近辺だな」

「こ、ここが?!」

ジスト達の世界で赤の国といえば、太陽が燦々と照る灼熱の砂漠だ。
しかしここはむしろ肌寒く、火薬のような臭いが流れてくる砂泥の地。
空は真っ暗で、月も太陽も見当たらない。

「酷い有様だ・・・。
息をしているのに苦しい。肺が黒くなりそうだ」

「この世界はどこもかしこもこんな状態だ」

かつてクレイズが言っていた。

――僕達が生まれた世界は、わかりやすい例えで言うならば、この世界の5ヶ国がすべて黒の国になってしまったような感じだ。



ここが、リアンとオズの生まれ故郷。
技術の進歩に侵された、不毛な世界。

「ひとまず、赤の国と思しきところへ寄ってみよう。
まだ住んでいる人々はいるのだろう?」

「そうだな。それがいい。
ちなみにこの世界では“並行人格”の存在が一般にも知れ渡っている。
だが自らが並行人格だとは名乗らない方が身のためだ。
並行人格同士が同じ世界に存在したらどうなるのか、という事は知られている。
バラすと危険な目に合うぞ」

「わかった。では行こう」

3人は王都に立ち寄る。





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