「おー、戻ってきた。お帰り、ジスト」
広場の瓦礫に座って懐中時計の様子を眺めていた3人が迎える。
「何事もなかったか?」
「は、はい、大丈夫です。魔物ももういませんし。
カイヤさん、時計の様子はいかがですか?」
「動きが鈍くなってきた。そろそろ吸い尽くしたかな?
王都の魔力も薄まってきてるし、もうすぐ満タンだと思います。
でも姫様、こんな事してどうするんですか?
確かに、ここから黒の国までひとっとび~くらいの魔力は十分にあると思いますけど」
「もし、もしもの話だ」
ごくり、とジストは息を飲む。
今から口にする言葉が現実になるとしたら・・・――
「もしも、“私達が”別の世界に渡れたとしたら。
それこそ、リアンとオズの世界に行けたとしたら。
・・・オズの話では、世界を渡るには膨大な魔力が必要だと言う。
その膨大な魔力が、今ここに、カイヤの手の中にある。
向こうの世界へ渡る事ができれば、レムリアを止める方法が見つかるかもしれない」
「で、でも姫様。今姫様が持っている指輪、大丈夫なんですか?
それ持ったまま別の世界に行くと、大変な事に・・・」
「それは大丈夫だ。
指輪は一時的に城の宝物庫に封印しておく。アクイラの血でしか開かない扉で出来ているのだ。
カルセがいれば、宝物庫を開けられるはず。
カルセも共に別世界に渡れば、この世界においてあの宝物庫を開けられる存在はいないという事になる」
「え。じゃああのカイヤの先生が言ってた魔境に行くってこと?!
うっわ、大丈夫かな。怖っ!」
「嫌なら留守番していてもいいぞ?」
「い、行くよ! 行くってば!」
そうと決まれば、とジストはカルセの手を取る。
「すまないが、少し付き合ってもらえるか?」
「わかった」
「大丈夫か? 姫さんもカルセも」
「あぁ。この先は王家のみが知る場所。すまないが皆はここで待っていてほしい」
ジストとカルセは連れ立って城に戻っていく。
「だ、大丈夫かなぁ・・・?!
別の世界に渡るって、簡単に言いますけど、博士とレムリアさんしか知らない技術でしょう?!
ぼ、ボク達にできるのか・・・」
「珍しいな。学者の好奇心とやらは疼かないのか?」
「王子こそ、なにサッパリしてるんですか!
どんな危険があるかわからないんですよ?!
ひょっとしたら、死んじゃうかも・・・」
「・・・あんさん、少しいいか?」
「なんだ?」
周囲をキョロキョロと見渡し、メノウは小声で尋ねる。
「アクロの奴、まだ近くにいるか?」
「は?」
突然その名を聞き、困惑する。
だがこいつの事だ。何か意図があるのだろう・・・――
コーネルは目を閉じてみる。
「・・・まだ近くにいる、らしい。微かに気配を感じる。
だがそれがどうした?」
「あいつ、世界を渡ってきたんやろ?
やり方知っとるはずやん」
全員はっとする。
「よーし! アクロを捕まえよう!!
王子、あの人今どの辺?」
「王都の外・・・くらいか?」
「俺行ってくる!
担いででも連れてくるからね!」
アンバーが身軽に走り去っていった。
「なっ・・・?!
ちょっと待ておい、これはつまり、あいつが同行するという事か?!」
「ま、少しの我慢や。戻ってきたら煮るなり焼くなり好きにせぇ」
くっ、とコーネルは思わず拳を握る。
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