崩壊した王城。
当時、あの大きなドラゴンに砂城の如く踏みにじられ、かつての栄華を一瞬で葬り去った。
何事もなければ、今頃ジストは新しい王となり、平和な国を築いていただろう。

城門をくぐり一歩踏み入ると、エントランスの天井が崩れ落ちて空を覗かせていた。
紛れもなく、ジストはここで育ってきた。
なのに、懐かしさとは違う、どこか他人事のような雰囲気を覚える。

「これがミストルテイン城・・・」

ぽっかりと空いた天井を見上げていたコーネルが思わずそう零す。
彼も何度かこの城に来た事がある。実感のない現実が、目の前に広がっている。


「ひとまずレムリアの書斎に向かいたい。
彼の事だ。用心深く重要なものは残していないかもしれないが・・・
彼にとって何でもないものが我々にとっては有益なものになり得る。
何でもいい。彼の本性の断片が知れるものなら」

瓦礫が無造作に転がったままの階段を上り、レムリアの書斎がある2階の奥へ向かう。



彼の部屋もまた王城と運命を共にし、雑然と散らかっていた。
倒れた本棚が零した本を一冊拾い上げ埃を払うと、それが教科書だと気が付く。
本棚が抱えている本は、そのほとんどが、ジストを教育するにあたって必要となった教本ばかり。
例えまやかしでも、今のジストに育て上げた親はレムリアだった事を思い知らされる。
何も知らなければ、彼がそのままの彼だったなら、恩師と呼ぶべき存在だったはず。

「姫さん、大丈夫か?」

教科書片手に立ち尽くしていたジストの肩に大きな手が触れる。
はっと我に返り、首を振る。

「大丈夫だ。もう迷わないと決めたのだから!」

レムリアが使っていた机に近づき、引き出しを順番に開けてみる。
何の変哲もない書類達に挟まれた一通の手紙。幼い文字でレムリアの名が書かれていた。

「これは・・・」

確か、ジストがずっと幼い頃に、彼に送った手紙だ。
習いたての文字を必死で連ねた感謝の手紙。
しかし、開封された形跡がない。

「あの男め・・・」

今度は無性に腹が立ってくる。
そんな昔から、彼はジストに対して全く興味がなかったのだろうか。

最後の引き出しを開けてみると、革の手帳が現れた。
手に取ってみると、日記のようだ。

「・・・あの賢者、日記なんてものをつけていたのか?」

「いや、これは・・・!」

表紙をめくってすぐにわかった。
その日記を綴った人物の名が書かれている。

「“レイス・アウロラ・アクイラ”。
・・・母上の名だ」

ジストは静かにページをめくる。




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