王都中が青白い光に包まれる。
光の粒が球となり、暗雲の空に向かって静かに立ち上っていく。
今生の別れ。いつかまた、同じ空の下のもとに帰ってきてほしい・・・――

ジストは心の底から祈りを捧げる。
愛する民達の平穏な眠りを願う。
せめて来世では幸せでありますように。





数えきれないほどの光の球が空へ向かい、やがて消えていく。
青白い光が鎮まった頃、王都の空を覆っていた雲の切れ間から光の筋が漏れる。
迷える魂を導くために、天が手を差し伸べている。そんな光景だ。

「カルセ、ありがとう。
きっとこれで、皆安らかに眠っただろう」

王都の空気はすっかり澄んでいた。
人の気配はまるでないが、清らかな風がそっと吹いている。

「あら。
すっかり浄化されたけど、魔力はそのまま残っているわね。それもものすごい量。
これなら悪魔の1匹や2匹、新しく生まれてもおかしくないわ」

「えっ。悪魔って魔力があればポコポコ生まれるんですか?」

学者的な好奇心を覗かせるカイヤにブラッドは頷く。

「そうよ。悪魔のもとは魔力そのもの。
まぁ悪魔1匹が生まれるためには人間が何百人単位で必要なんだけど。
それでも、ざっと計算しても、ここには何千という人数分の魔力があるわね。
今のアタシは水の中を泳ぐ魚よ。気分がいいわ」

何千人もの魔力が充満している・・・――
それ即ち、失われた命の数。
さすがのジストも神妙な面持ちだ。



「ねぇ、カイヤん。さっきから気になってたんだけど」

感傷に浸っていたところで、アンバーがカイヤの胸元を指差す。

「なんか光ってない? そこ」

「え?」

慌ててカイヤは胸に手を当てる。少し暖かい。
そしてその熱を発しているものがなんなのか、引っ張り出してみてわかった。

「博士からもらった懐中時計が光ってる」

蓋を開けてから、驚いて目を点にする。
時計の針がぐるぐると勝手に動いているのだ。

「な、なにこれ?!
壊れてるのかな・・・」

「時計ってそんなに元気よく壊れるものなの?」

確かに、壊れたというにはおかしな動きだ。
ざわめく一行を不思議に思ったブラッドがカイヤに近づき、時計を覗き込む。

「あら。それ“魔力時計”じゃない。そんな貴重なもの、よく持ってたわね」

「マリョクドケイ、ですか?」

「なぁに、知らないで持ってたの?
魔力を貯め込む時計よ。動力が持ち主の魔力なのはもちろん、周辺に散ってる魔力を吸い上げて蓄えるの。
貯めた魔力を使えば好きなところに一瞬で移動できる。転移魔法の代替にできるやつよ。
もう作れる人がいないって聞いてたけど」

「博士、そんな事一言も・・・!」

「これだけの魔力を全部吸い上げたら、別の世界まで飛べちゃうかもしれないわね」

ブラッドは恐らく冗談でそう言ったのだろうが、“別の世界”という言葉にピンとくる。

「・・・カイヤ。
その時計に、王都に満ちている魔力を全て吸わせてもらえるだろうか?」

「え、えぇ、いいですけど。
なんか勝手に吸い込んでるみたいだし、待っているだけでそのうち全部吸っちゃうと思います」

「うむ、頼んだ。
アンバーとサフィはカイヤについていてくれ。
メノウ、コーネル、カルセ。王城まで一緒に来てくれ」

そして、とジストはシャルとブラッドに向き合う。

「カルセを助けてくれた上に貴重な情報もありがとう。
君達は危険な目に合う前にここから出た方がいい」

「言われなくてもそうするわ。行きましょ、シャル。
不思議ね、あんた達とはそのうちまた会う気がするわ。じゃあね」

「ばいばい、王子様」

それぞれが各々の目的地へ向かう。




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