散り散りになって魔物を討伐していた一行は、ひとまず目立った部分の魔物を倒した後に広場で合流する。
魔物は減ったが、まるで長年誰も足を踏み入れていない墓場のような重苦しい雰囲気が漂う。

「シャルのお願いだからここまで来たけど、悪魔のアタシでも気分が悪いくらい淀んでいるわ、ココ。
・・・というのはまぁ置いておいて。
改めて挨拶させてもらうわ。アタシがブラッド。この前はシャルの影の中から失礼したけど、ココは暗いから安心ね」

声の印象と同じく、見た目からも性別はわからない。
実体があるように見えなくもないが、重量感が感じられないほどにフワフワと自由に動き回る。

「それで、カルセに“死”の予兆が見えたから来た、と?」

ジストが確認するように尋ねると、ブラッドもシャルも共に頷く。

「どういうわけか、このコには他人の死が見えるの。
分別なくいろんな人の死が見えるワケだけど、いちいち1人ずつ助けてまわるのはムリよって諭したのよ。
それでも、やっぱり顔見知りの死が見えちゃったら、来るしかないじゃない。
まぁアタシは別に人間の生死なんてどうでもいいんだけど、シャルがどうしてもって言うから」

「お陰で助かったんだ。この人達がいなかったから、僕、アクロに殺されていたかも」

「アクロに?!」

驚いて声を上げる。
そしてすぐに彼の言葉を思い出す。

――俺はお前の命を最優先で考える。

――それが例えお前の行く道に立ちはだかる事になるとしても・・・――



「コーネルはどうしてアクロがいるってわかったの?
僕を助けに来てくれたよね・・・?」

「・・・別に、大した事をしたわけじゃない。
俺はあいつが近づくとわかるんだ。酷い頭痛がするからな。
殺そうとしたが逃げられた」

彼はチッ、と舌打ちをした。

「おい、小娘。死が見えると言ったな?
アクロの死は見えないのか?」

「んー、見えない」

「ふん。殺すのはもっと先か」

詰まらなさそうにコーネルはそっぽを向いた。



「それで、やるんでしょ?
“風送りの儀”。
ココ、随分淀んでるから、早めにやっちゃわないとまた魔物が寄ってくるわよ」

「そうだな。
カルセ、やれるか?」

「うん、やってみる」

広場の中央にカルセは立ってみる。
王都の中心にあるその広場は、その当時、ジストの戴冠に備えた前夜祭で盛り上がっていた場所だ。
集中力を高めるために目を閉じると、彼はそれを知らないはずなのに、あの楽しげな喧騒が耳の奥に響いてくるような気がした。
ただただ明るい未来が続いていくと信じていた、儚い命達の声。

――もし本当に僕がこの国の王子だったら、この人達はどんな気持ちになるだろう・・・――



やがて彼は静かに言葉を紡ぐ。


「我が声、我が祈りに応えよ、疾風の担い手よ・・・――」




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