その瞳は“死”を映す。
彼女は目に映る不幸に誘われるように、吸い寄せられるように、そこへやってくる。

「あれ・・・君」

魔法で魔物を退治していたカルセのもとに、シャルがやってきたのだった。

「お兄さん、死んじゃうかも」

「え、死・・・?」

実感のない言葉を繰り返してから周囲を見回す。
近くにいた魔物は大方始末したところだ。今ここに、早急の危機はない。

「君こそ、ここにいたら危ないよ。
グレンさんは?」

「3、2、1・・・」

カルセの言葉を遮るように、シャルは数を数える。
まるで、本当に死ぬまでのカウントダウンをしているような・・・――

「ブラッド」

キィン!!と剣を弾く音がした。



驚いて思わず腰を抜かすカルセの前に、長身で痩躯な後ろ姿があった。
その背には禍々しい翼、まるで魔物のような長い尾、それでも立ち振る舞いは美しい、ような・・・。

「物騒な坊やね。まったく、悪魔が人間を助けるなんて、道化もいいところだわ」

聞き覚えがある声だ。
そして、その後ろ姿の向こうには。

「コーネル・・・?
じゃ、ない・・・」

剣を携えた青年。
――アクロだ。

「シャル、どう?」

「うん、もう大丈夫みたい」

「あらそう。潔い子は嫌いじゃないわよ」

後ろ姿が振り返る。
真っ赤な隻眼、不敵に笑う口元。顔立ちは男女どちらともつかない。

「・・・大悪魔、さん?」

「憶えていたのね。偉いわ。さて、あのコどうする?」

アクロはただじっとカルセを見つめている。

「僕、を殺そうと・・・?」

「そうだ」

アクロは素直に頷く。

「おかしいと思っていたんだ。“この世界”は俺が知らない世界。
その元凶がお前だと、ようやく気が付いた。
そして俺は選択する。
お前を殺し、ジストを生かす、という選択だ」

「ジストを?」

「そうだ。
尤も、お前があのジストに勝るとは、俺には思えない。
ただの可能性潰しだ。塵のような可能性でも存在するのならば、俺はそれを潰す。
より確実にジストを生かすために」

「何を言って・・・――」

走ってきた足音に掻き消される。

「アクロ!! 貴様!!」

コーネルだ。
彼はすぐさま剣を抜く。

「何のつもりだ?!
ええい、もういい。今ここで決着を・・・!!」

「それには及ばない。
貴様にも少しは生かす価値があるようだからな。やるべき事はやってもらう。
殺すのはその後だ」

「何ィ・・・!!」

「お前、選べ。
今ここで俺に終わらせられるか、それともこのままゆっくりと死んでいくか」

カルセはゆっくりと立ち上がる。

「・・・わからないけど、僕はまだ死にたくない。
何も知らないし、何もできていないから」

「そうか。お前がそう言うのなら、いいだろう」

アクロは剣を鞘に納める。
納得がいかないコーネルは斬りかかろうとするが、カルセがそれを抑えた。

「“同一”は同時に存在できない。
そういう決まりだ。やがて“お前達”にもわかるだろう」

彼はくるりと背を向けて去って行った。





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