――どうにも、“ここ”は奇妙だ。
燻るように稲妻を帯びる黒い雲が、廃墟となった王都の上をぐるぐると渦巻いている。
日中のはずだが、黒雲が太陽を覆い隠しているせいで真夜中のように暗い。
視線を下ろせば、瓦礫の街を闊歩する魔物達の姿。
その数は、多すぎて計り知れない。目についただけでも十数個体がいる。
少し前から、アクロは戸惑っていた。
何故なら、今いるこの世界、それは彼が知るどの世界とも違っているからだ。
彼の中には、ここまで荒んだミストルテインの記憶はないし、“死ぬべき人”が“死んでいない”という現実さえある。
なるべく自分が知る歴史に近づけようと軌道修正を試みてきたが、それでも、この王都をどうにかするには彼1人の力では足りない。
――今度はどんな“死”が待ち受けているというんだ?
考えただけでも立ち眩みがする。
ただ1人、愛すべき人。その存在を、今度はどのようにして運命に奪われてしまうのだろうか。
気を紛らわせるかのように、彼は剣を振るって数体の魔物を倒す。
赤黒い血のようなものを撒き散らして倒れ行く魔物。しかし、斬っても斬ってもまるで数が減っている気がしない。
あぁ、キリがない。
背後に人の気配を感じた彼は、素早く身を潜めて様子を伺った。
「嘆かわしい!!
なんだこの有様は!!」
ジストだ。
しばらくぶりに里帰りを果たしたというのに、この有様だ。嘆くのも無理はない。
相変わらずの姿にアクロはほっとするが、直後にこの“違和感”の原因を見つける。
――ジストが2人いるだと?!
体全体で悲しみを表現しているジストの傍らに、まるで彼女と瓜二つの姿がある。
アクロの頭の中が真っ白になる。
こんな状況、誰が予想していようか。
おかしいはずだ。“ジスト”が2人いる世界など、見た事がない。
同時に、この2人の正体が、アクロには直感的にわかってしまう。
二者択一。運命はいつも、彼に残酷な仕打ちを提示してくる。
「思ったより数が多いが・・・なに、どうという事はない!
こちらにはこちらなりの戦力が揃っているのだからな!!
傭兵の底力を見せつけるといい!!」
「それって俺も含まれてる?!」
各々武器を構え、襲いくる魔物に立ち向かう。
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