死者の魔力を吹き飛ばす、そんな目的の儀式だ。
想像していた迫力とはかけ離れた、穏やかな光に包まれたひとときだった。

青白い光を纏う不思議なそよ風が吹き、どことなく周辺の空気が浄化されたような気がした。
棺に変化はない。相変わらず、そこに鎮座している。
あのふざけたグレンが紡ぐ不思議な詠唱の言葉に、その場にいた全ての者が無意識のうちに祈る気持ちを持つ。
魂を送る、鎮魂の歌。
猛る魂はこの歌を聞いて、現世から解き放たれるのだろう。



「・・・っと。ここまでだ。
多分成功したんじゃね?」

いつもの調子に戻ったグレンだが、その場で立ち尽くす参列者の姿に肩すかしを食う。

「ロシェまで神妙な顔しやがって。調子狂うじゃねぇか」

「そうですわね。まぁこれでじじいは無事に旅立ったでしょう。
バカ兄貴にしては上出来ですわね」

「よく言うぜ」

本当に、ここにいるのは大賢者なのだ。
こんなにふざけた風貌だが、その実力は確かなのだろう。

「・・・素敵ですね。
優しい風に送り出される儀式。
アルマツィアにはない、美しい光景でした」

感極まったのかサフィは涙を浮かべていた。

「ほんと、びっくりした。
俺まで浄化されそうだったもん」

「ははっ。そうだな。それほど良い儀式であった。
うむ。グレンよ、良いものを見せてもらった。
王族ながら、間近で風送りを見たのはこれが初めてなのだ」

「そりゃどうも。
しっかしこれ疲れるな。もういいか?
俺はさっさと宿に戻って昼寝したいぜ」

「グレンさん、僕」

カルセが彼に歩み寄る。

「・・・なんだかこれ、知ってる気がした。すごく懐かしいんだ。なんでかわからないけど」

「しっかり覚えておけよ。二度やるのはごめんだぜ」

「うん、大丈夫。
・・・ジスト、僕出来ると思う。ミストルテインで」

「そうか!
それは有難い事この上ないな」

肩を回しながらグレンが口を挟む。

「あんたら王都行くのか?
魔物だらけなんだろ?
俺だってあそこの魔物殲滅は諦めたくらいだぞ」

「それでも、行かねばならないのだよ。あそこには何か重要な秘密が眠っている。
・・・そんな気がするんだ」

「あぁそうかい。別に止めやしないけどよ。
気張って行ってこいよ。
あそこで死んだら誰も骨拾えないからな。クハハ!!」

じゃあな、と軽く手を上げて彼は去って行った。





「まさか近場の酒場でダダをこねていたなんて。
我が兄ながら情けない・・・。
ま、何はともあれ助かりましたわ。道中お気をつけて」

「あぁ。しばらくは忙しいと思うが、君も体には気をつけたまえ」

「うふふ。お気遣いどうも」

ロシェに別れを告げ、アルカディア家の屋敷から出た。
もうすぐ夕方だ。王都までは時間がかかる。
今晩はこの街で一泊する事にした。





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