文字通り引きずられてきたグレンを見た屋敷の者達は唖然とする。
というのも、グレンはもう20年以上実家に戻ってきておらず、手紙の1つも寄越さなかったという男だからだ。
「おじさんカッコ悪い。
自分でちゃんとここまでくれば、シャルがいい子いい子ってしてあげたのに」
「んなモンで釣り合う気合いじゃねぇんだよ、この門をくぐるのはよ!!」
「あらバカ兄貴。相変わらず何もかもユルユルですのね?」
「おー、ロシェ。久しぶりだな。つうかクソ老けたなお前」
黒い傘がグレンの横っ面を叩いた。
「奥歯ガタガタ言わせられる前に、さっさと儀式を行ってくださいまし。
もうわたくし疲れましたわ。弔問客の相手で小一時間立ちっぱなしですのよ?」
「有り得ねぇー・・・。
死んだ親を見送る儀式?
クソかよ。反吐が出るぜ」
「そんな事言って。
じじいが成仏できずに夜な夜な徘徊されたら、わたくしたまったものではありませんわ!」
仲がいいのか悪いのか。息が合っているのかいないのか。
この兄妹が本当にアクイラの片翼を担う末裔なのか。
答えのない雑念を捨てようと、ジストは虚無に徹する。
「グレンさん、本当に“風送りの儀”って知ってるんですか?
大丈夫? ・・・なんですよね?」
疑いの目を向けたくなるのもわかる。
「あー、どうだったか。やった事ねぇし。ていうかいつの話だよって次元で昔聞いただけだしよ。
ま、どうにかなんだろ。要は親父の残った魔力を散らせばいいんだろ?
何とかなるって、多分」
つかつかと棺の前に歩み寄り、首と肩を捻って一息吐く彼。
「あぁそうだ。カルセドニーっつったっけ?
お前、見とけ。いいか、一度しかやらねぇからな」
「えっ、僕?」
「覚えておいて損ないぜ?
あんたら、“ソレ”目的だったんだろ?」
彼は背を向けたまま、顔だけこちらの様子を覗き見る。
「・・・グレン、君は・・・」
「行くぞォ。失敗したらすまん、屋敷ごと吹っ飛ぶ自信がある。
構えとけ。クハハ!!」
彼は右手を棺にかざす。
≪――我が声、我が祈りに応えよ、疾風の担い手よ。
今ここに、長き旅路を終えた魂在り。
誘え、遥か彼方の時空の先へ。
魂よ、去る姿に我らの憐憫を。
遠き果ての歴史の中、
再び交わる時を夢見て――≫
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