仮にも二大貴族の当主だった人物だ。
王家ほどとはいかないが、大部屋で盛大に祀り上げられて祭壇が出来上がっていた。
「あらぁ、いつぞやの王子様。
うちのじじいの弔問にわざわざ?
うふ、ありがたい事この上ないですわね。
まぁ死んでからお会いしたところでどうしようもないのですけれど」
ロシェだ。
初めて彼女と対面した時は爽やかな白い服を着ていたが、もちろん今は黒い服を身に纏っており、携えていた日傘は黒いものに代わっている。
そして相変わらずの切れ味を持つ口だ。
「メノウ、久しぶり。元気にしていたかしら?
不思議な事もあるものね。強面から殺気が消えているわ」
「ほっとけ。死んだ親の前でくらい、しおらしくしてろや。可愛くない」
「いやだわ。わたくしだって実家なんて嫌いなのよ?
バカ兄貴がすっぽかしたせいで忙しい目に合っているっていうのに、励ましてもくれないの?」
そのバカ兄貴ならば近くの酒場で不純の極みを尽くしているぞ、と喉元まで出かかる。
「ロシェ。君が新しい当主になったというのは本当なのか?」
「えぇ、本当。これで残念ながらわたくしはジスト様の片翼に相成ったという事ですの。
えぇ、えぇ、本当に残念。ギルド長は自由で素晴らしい安寧の席でしたのに、余計な雑事が増えましたわ」
その言葉から察するに、新しいギルド長が生まれたのだろう。
なんだかんだで、兄よりかは運命に妥協する女性のようだ。
「ぐっ・・・。
ひとまず祈りは捧げよう」
「あぁそう、祈りと言えば。
困った事に“風送りの儀”を行える者がいないのですよ。
このままではうちのじじいが怨霊と化してしまいますわ」
「ロシェ、君はその儀を行えないのか?」
「わたくしやり方を知りませんもの。
ジスト様だって知りませんでしょう?
あぁ、哀れな。じじいは召される事なく永遠にその辺りを意味もなく彷徨うのですわね」
どこまで不仲を貫けばここまで死んだ親を貶せるのであろうか。
「ミストルテインで風送りの儀を行ったのはアルカディア公だと聞いてきた。
という事は、その本人が故人となった事で、風送りの儀という文化は失われたという事か・・・?!」
となると、魔窟となったミストルテインを解放する手段がない。
だが焦るのは早い、とばかりにロシェは首を横に振る。
「バカ兄貴はやり方を知っているはずですの。曲がりなりにも当主候補だったのですもの。だから仕方なく呼んだのに。
でもすっぽかされたのではどうしようもないですわね。
いない男を頼っても仕方ありませんもの」
「えぇい、どこが賢者か! 愚か者め!
私は今からグレンを引きずってでも連れてくるぞ!!
あの男、最初からそれをわかっていたな?!」
「それ、とは?」
「己の意固地をだ!!
メノウもついてこい! あの男を捕まえる!」
「はいはい。ほんまどっちが子供やねん・・・」
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