「目的の本が見つかりました。じゃじゃん!」
本屋のハシゴから戻って合流したカイヤは得意げに、古ぼけた分厚い本を見せてくる。
表紙の著者を見てみると・・・――
「“クレイズ・レーゲン”?
それ博士さんの本なの?」
「そうです!
絶版と噂されていたほどの貴重品ですよ。フフッ!」
「カイヤさん、やっぱり博士さんをすごく尊敬してらっしゃるんですね・・・!
ずっとそれを探していたって・・・。
あれ、でも書いたご本人が一冊くらいは持っているものでは・・・?」
「今から10年くらい前に出した本らしいんですけど、本人が“黒歴史だ”って言って見せてくれないんです。
絶版なのも、博士本人がお店や図書館で見つける度に焼いて捨ててしまうからなんです。
どこ行っても見つからなかったから、大満足ですよ~!」
「論文に黒歴史も何もあるの?
実は公表した後にやっぱり間違ってましたー!とか、そんなん?」
「あぁ、いえ。そういうわけではないらしいんです。
ただ、何かすごい事が書かれているらしくて。
“こんなもの多くの人の目に晒す話じゃない”って言ってましたね。
ざっと読んだ感じ、薬学的な内容みたいですが・・・」
何はともあれ、カイヤは長年の夢が叶ったかのようにいつになく幸せな顔をしていた。
人によっては生意気だと捉えるような彼女の性格だが、繕わない部分は実に単純明快らしい。
「で、極めて幸福そうなところで申し訳ないが、どうやら一歩遅かったらしい。
アルカディア家の当主・・・つまり今から私達が会おうとしていた人物は、昨日天寿を全うしたらしい。
真実は闇の中・・・とも言い切れない。新しい当主が屋敷にいるらしいのでな、その人物に会いに行くぞ!」
「昨日ですか・・・?
なんか、都合よすぎません?
いや、誰にとっての都合なのかはわからないですけど」
「仕方あるまい。事実もう故人になってしまったのだから。
あぁ無情だ。私の幸運は尽きてしまったのか?」
ブツブツと独り言を垂れ流しながらもジストは屋敷の門を叩く。
なるほど、いかにも喪に服しているかのように、使用人たちは喪服に身を包んでいる。
弔問と勘違いしたのかあっさりと受け入れられ、神妙な空気の漂うアルカディア家の屋敷に一歩足を踏み入れる。
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