シャーレに連れられて酒場を覗いてみると、まだ日も高いというのに艶やかな女性を両隣に抱えてトランプを嗜むグレンの姿があった。
テーブルには空いたジョッキとコインの山。灰皿には煙草の吸殻が小高く積まれている。
この小さな空間に大人の汚さがぎっしり詰め込まれている。煙たい裏社会の縮図だ。

「よう。元気そうだな、お前ら!」

「な、何を呑気に・・・。
君は大人としての自覚がないのか!!
こんなに幼い少女を1人で待たせて酒場に入り浸りとは!!」

「耳タコだな。今更その程度の文句で通じると思うか? クハハ!!」

カイヤがいなくてよかった。
いたら鉄拳の1つでも飛んでいそうだ。

「で、こんな頭イカれた連中ばっかの街にあんたらが何しに来たってんだ?」

「アルカディア家の当主に話を聞きに来たのだ」

「おう、そうか。じゃあ行って来い」

「君の親の事だ、戯け!! 何を他人事のように!!
聞けば、君も実家の用事があったと・・・」

「あぁ、別に大した用事じゃない。
今更あの老いぼれの死に顔見たって仕方ねぇしな」

うん?とジストは首を捻る。

「それはどういう・・・」

「あー、昨日だっけ?
親父死んだってよ。大往生だ」

沈黙。

「な、なにぃぃ??!!
下手な冗談は笑えないぞ?!」

「だーかーらー、マジだマジ。
第一、この俺が親の死に目以外で家に帰ると思うか?
俺はあそこが地獄の底より嫌いなんだぜ?」

「・・・お、お前・・・親の死に目に帰ってきたのに、酒場にいるのか・・・?」

なんだかもうこの男がよくわからない。
コーネルでさえ悪態の1つも浮かばない。

「・・・どないする、姫さん?
話聞ける相手おらんのちゃう?」

「弱ったな。という事は、“今の”当主は君なのか」

「誰があんなクソみたいな家を継ぐかってんだ。全部ロシェに任せた。
屋敷にいると思うぜ。話ならあいつに聞け」

うわぁ、とメノウが額を押さえる。

「会いとうない・・・」

「いや、まぁ、うむ。一応彼女は私の恩人の1人だからな。会うだけ会ってみよう。
・・・どうも難しいものだがな、彼女の相手は」

「ジストでもそう思う人がいるんだねぇ。意外っちゃ意外?」

「なに、今なら大丈夫だ!
あのナイフのような巧みな言葉捌きも全て受け流してみせよう!!」

乾いた笑いを上げながらジストは酒場から出て行った。
それでも特に動く気配もないグレンに呆れ、他の者もそれに続く。
立ち去る間際で、カルセだけがグレンに頭を下げた。

「グレンさん、ありがとう。
グレンさんに教えてもらった召喚術、ジストの役に立ったみたい」

「そりゃよかったな。
ま、俺は何もしてないけどな」

ジストを追いかけて小走りに去っていくカルセを見送る。

「・・・ねぇおじさん、いいの?
やるんじゃなかったの? “風送り”」

「ったく。めんどくせぇモン見やがって。
何で“見た”んだよ。親父の死をよ」

「・・・おじさん、後悔すると思って」

「ガキは黙ってりゃいいんだ。大人には事情ってモンがあるんだからよ」

「嘘吐き。じゃあなんでわざわざ急いでここまで来たの?」

「さぁな・・・」





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