まるで何事もなかったかのようにフリューゲル公に見送られ、屋敷を出る。
すでに気持ちがヘルギの街へ飛んでいるジストの傍らで、カルセだけは公爵に複雑な思いを抱えていた。

「いんやー、残念。いい天気。名残惜しい?」

お気楽なアンバーに彼は苦笑いで対応し、丘の道を下る。
少し振り返ると、屋敷の窓の向こうでユーディアがこっそりと手を振っていた。
小さく手を振り返し、やがて前を向く。





「それで、風送りの儀、でしたっけ?
それに失敗して、王都に何やら魔物がたくさん住み着いているって」

「そうらしい。
それが本当なら、どうにか失われた無念の魂達を鎮めなければならない。
カイヤよ。正直なところ、科学的な意味でそのような事態は有り得るのだろうか?」

鞄の中に詰め込んでいた専門誌のようなものを片手に、カイヤは唸る。

「ボク達みたいな視点から言わせてもらえば、それって神様がいるかいないかみたいな域の話だと思うんです。
まぁでも、実際問題そんな事が起きているのなら、何かしら理由があるはず。
そうですね、ボクなりに推測すると・・・、一種の魔力の暴走とでもいうか。
亡くなった方々の今際の恐怖が、残された彼らの魔力を歪めて、残滓として停滞しているって感じですか。
そのヘンな魔力に誘われて、周囲にいた魔物達が寄ってきて住み着いてしまったって筋が濃厚ですかね」

「つまりあれでしょ、怨念。うらめしや~ってやつ!」

「・・・おいゾンビ。それは体を張った冗談か?」

「お、いいね! 王子もなかなかジョークが通じるようになってきたじゃん!
死体ジョーク。どうよ?」

「お前が言うとシャレにならんわ。アホらし」

「皆さんボクの話をまともに理解する気ないでしょ・・・」

はぁ、と長い溜息が漏れる。
続けるのも馬鹿らしいが、とりあえずジストは聞いているようなのでカイヤは続ける。

「風送りの儀、ボクは実際に見た事ないので詳細は知りませんけど。
本来はそういう残留思念みたいな悪い魔力を、大きな風を起こして薄めさせるような・・・
恐らくはそういう意図のある儀式なんだと思います」

「なるほど。となると、もう一度風送りの儀を行って成功させれば、王都の魔物はどうにかできるという事だろうか」

「とはいっても、すでに集まっちゃってる魔物は物理的に排除しないといけないかもですよ。
聞く限りだと、かなりたくさん住み着いているみたいじゃないですか。
もはや1つの生態系が形成されているレベルかもしれません」

「あぁ・・・。あれほど栄えていた王都が、よもや魔物などに支配されようとは。
父上に顔向けができぬではないか」

だがしかし、とジストは勇んでいる。

「これはミストルテイン復興の第一歩に相応しい!
そうだ。どんなに肥えた畑も、最初の一振りがなければ耕せないというもの!!
金はクロラから泣いて詫びるほど搾り取ってやろうぞ!! ふははは!!」

「・・・姫さん、逞しくなったなぁ」

フロームンドの東にあるヘルギの街。
晴れ渡った空の下で、ジスト達はそこへ向かって歩を進める。





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