珍しくカルセから頼みこまれ何かと思えば、ユーディアを外に連れ出すという。
兄を亡くして以降屋敷から出る事を拒んでいた彼女が、カルセに連れられて庭に出ている。
窓からその様子を見て、ジストは満足げだ。
ここまで打ち解けてくれるとは彼女自身思いも寄らなかったが、久方ぶりのユーディアの笑顔が晴れた空と相まって実に愛らしい。
うんうん、と1人で頷いていると、たまたま通りかかった夫人が足を止めて窓を見やったのに気が付く。

「え、ユーディア・・・?」

呆気にとられ、夫人は思わず娘の名を呼ぶ。
挨拶をしようとジストが近づくと、夫人はわなわなと震えだした。
肩に乗っているオウムが首を傾げる。

「ご夫人?」

「あぁ、あぁ、ロードだわ・・・。なんということ・・・。
この姿がまた見られるなんて・・・!」

「ご夫人、彼の事だが」

「ジスト殿下、彼は一体?!
まるで息子の生まれ変わりのよう・・・!」

窓に貼りついて涙を流すユーディアの母。
もはや何を言っても聞くまい。





そよそよと心地良い風を受け、ユーディアは幸せそうだ。
晴れたおかげか、少し暖かい。
春もそう遠くないのかもしれない。

「外はこんなに明るくて気持ちいいのですね。
お兄さまの事を思い出してしまうから、この庭には出ないようにしていたのですが・・・
今はただ、とても幸せです」

「よかった。
寒くない? 風邪ひかないようにね」

ゆっくりと車椅子を押しながら、庭を気ままに周る。
冬場の庭に花はないが、それでも確実に、次の春を待つ芽がそこかしこに覗いている。

「カルセさん。きっとまた、来てくださいです。
お花がたくさん咲いたこのお庭を、カルセさんとのんびり眺めたいです」

「うん。必ず来るよ。約束する」



庭を一周したところで、夢の時間は終わってしまう。

「そろそろ行かなきゃ」

言い聞かせるような彼の呟きに寂しくなるが、ユーディアは大事に握っていたある物をカルセに差し出す。

「カルセさん。これを受け取ってくださいです」

彼女が手にしていたのは、春の花畑のような様々な色彩の糸で紡がれたミサンガだ。

「くれるの?」

「はい。夜通し頑張って編み込みました、です。
どうかお守りに。これをユーディアの代わりに連れて行ってくださいです」

「ありがとう。すごく綺麗。大事にする」

彼女は彼の手をとり、その手首にそっと結びつける。



余韻を残しつつ別れを告げようと、互いに向き合ったその時。
どこか近くで、小さな鳴き声がした。

「・・・あれ?」

枯葉の下で、何かが懸命に鳴いている。
もぞもぞと動く葉をどけてみると、小さな子犬が顔を覗かせた。

「犬だ。捨て犬かな・・・?」

「大変です! すぐに温かいところへ・・・」

カルセが抱き上げた子犬をユーディアの膝に乗せる。
子犬は小さく、今にも壊れてしまいそうなほど繊細だが、確かに生きている。
ユーディアが肩にかけていたマフラーで子犬を包み、抱きしめる。

「カルセさん、ユーディアも頑張ります。
頑張ってこの子を育てます。
この子と待っていますから・・・!」

寂しい別れが希望に変わる。
笑顔でペコリと頭を下げ、ユーディアは子犬を連れて屋敷に戻っていった。





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