「・・・と、いう訳で。
ミストルテインは今現在、魔窟のようになっているらしい。
事の顛末を正確に知るには、フリューゲル公の偏った自論だけでは不十分でな。
雨雲が去ったら、次はアルカディア家がいるヘルギという街へ向かうぞ」

「へぇ、アルカディア家ですか。
確かその名前、あのグレンさんのご実家ですよね?
なんか面白そう! 今度グレンさんに会ったらからかっちゃおっと」

カイヤは面白そうにクスクスと笑っている。

「本人は一切実家に寄りつかないらしいからな、向こうの屋敷にいるのはせいぜい彼の父親である老公爵くらいだろう。
私もそう何度も会った事はない相手でな。どんなクセ者かは不明だ」

「そんだけ年食ってもご苦労なこったな。
グレンはアレやし、妹のロシェもあんなんやし。いっそ哀れやわ」

「グレンさんって妹いるんだ・・・。
やっぱり遊び歩いてんの? 美人かな?!」

「美人やけど、性格がえげつないな。
この先のバルドルって街でギルド長やってんで。顔見知りや」

「あぁ、そう・・・」

残念そうにアンバーは苦笑いだ。本当に自分に素直な男である。

「そういえば、カルセとユーディアは?」

「ふふ。すっかり意気投合されたようで。
仲良く本を読んでいらっしゃいましたよ」

サフィは楽しそうに答えた。

「ジスト。お前、あの公爵にあんな事を言っていたが・・・」

「私とてユーディアは愛すべき相手だ。だがこの心は彼女の幸福を第一に願うもの。
彼女も昔から私に懐いてくれているが、彼女を真に幸せに出来る存在は他にいると思うのだよ。
今回は彼女にそういう“可能性”を示したかったのさ」

小さな鳥籠の中で育った、美しい小鳥。
大空を知らないその羽に、自由を感じさせたくて。

「今までの私だったら、思いつきもしなかったよ。
だが、この足で歩いて出会い、この手を結んだ君達がいるように、ユーディアにもその素晴らしさを分けてやりたいと思った。
皆、ありがとう。私の我が儘について来てくれて」

どうして誰もが皆ジストについて行こうと思ったのか。
きっと今の彼女の言葉が、その答えなのだろう。






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