「あぁ、参った参った。
このタイミングで大雨に降られるとはな!」

急いで玄関先まで車椅子を転がしてきたユーディアは、ずぶ濡れになったジスト――と、その他大勢の姿に驚愕した。

「ジストさま!」

「おお、ユーディア! 会いたかったぞ!!
また一層可愛らしくなったな!!」

褒める一言の後に、くしゅん、とクシャミが出る。

「い、いけません、風邪をひいてしまいますです!
今タオルを・・・」

「大丈夫だ、ユーディア。慌てなくていい。
それで、フリューゲル公は?」

「はい、お父さまは只今・・・」

言いかけたところで、ドタドタと慌ただしく駆け寄ってくる音がした。

「ジスト殿下!! よくぞご無事で!!
ユーディア、何をしている!! さっさとお通しせぬか、馬鹿者!!」

ビクッと肩を跳ねたユーディアは、恐々、ごめんなさいと呟く。





火が焚かれた暖炉のある部屋に通され、ジスト達はようやく一息つく。

「ユーディア。いきなり大勢で押しかけて悪かった。
安心してくれ、この者達は全員私の旅仲間だ」

ジストは順番に仲間達を紹介していき、最後にカルセの腕を引っ張った。

「あれっ・・・」

ユーディアは桃色の瞳をぱちぱちと瞬く。
ジストはカルセに顔を寄せ、にんまりと笑った。

「どうだ。そっくりだろう?!」

「え、えっ、ジストさまのごきょうだい・・・です?」

「はは! そうかもしれないな!」

大雨でも大雪でも、ジストの笑顔はいつでも晴天のようだ。
ユーディアは思わず微笑む。

「は、初めまして・・・。
ユーディア、です」

「初めまして。カルセドニーです。カルセって呼んでね」

カルセはしゃがんでユーディアの顔を覗き込んだ。
どきっ、と鼓動が高鳴る。
彼女に視線を合わせようと腰を曲げる者は多いが、わざわざ座り込んでくれたのは・・・――

「お、兄・・・さま・・・?」

無意識に口をついて出てきた言葉を慌ててかき消すように首を振る。

「ご、ごめんなさい。い、今のは何でも・・・」

「ユーディアよ。私はフリューゲル公と少々話がある。
その間、良ければ、私の旅仲間の話し相手になってはくれまいか?」

「は、はい・・・」

「宜しく頼むぞ。
コーネル、来たまえ。ミストルテインについて聞きに行くぞ」

「なんで俺が」

「隣国の王子だろう?
同盟の相手なのだから聞く義務がある!」

億劫そうなコーネルを連れて、ジストは執務室へ向かった。





「まさに深窓の令嬢ってカンジ!
かわいいね、君!! ユディって呼んでもいい?」

「えっ・・・?!」

見た事も向き合った事もない軟派な青年であるアンバーに動揺する。

「ほんと節操ないっていうか。なんなんですかね。姫様もアンバーさんも」

「ユディさん、ジストさんのフィアンセだそうですね!
さすが、と言うんでしょうか。とても可愛らしくて・・・」

「・・・サフィ、あんま困らせるようなテンションすんなや・・・」

ぽっ、と頬を染めて照れ笑いのサフィ。
――何かロマンス的な妄想が止まらないらしい。

「聞いてるよ、ユディ。動物好きなんだって?
ねぇカルセ、君も好きだよね。話、合うんじゃない?」

何らかの手が回っているのだろうか。アンバーは含みのある笑みを浮かべている。
そうとも気付かず、ユーディアはやっと自分の趣味の琴線に触れた事で緊張をほぐす。

「宝物があるのです。一緒に来てください、です!」

彼女は嬉しそうに車椅子を転がし、どこかへ向かう。



「・・・大変ですね。ずっと車椅子って。ボクと同じくらいの年みたいなのに。
今の医学じゃ治せないのかな」

「少しでも気が晴れればいいけど。
・・・カルセ、頼んだからね」

「うん・・・」

カルセはユーディアを追いかけて行った。






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