ニヴィアンで一泊した後、一行は王都カレイドヴルフに向けて出発する。
久々の故郷に、カイヤもウキウキしているようだ。
街並みを指差し、よく買い出しに来ていた商店や穴場の本屋について饒舌に紹介している。
マオリの話が引っ掛かるが、ジストはひとまず胸に留めておいた。
王城に立ち寄る前に魔法学校へ向かう。
というのも、先に指輪にまつわる話を聞いてからラズワルドと対した方が得策だと考えたからだ。
魔法学校は今、長期休暇で生徒がほぼ出払っている。
初めてここを訪れた時はガヤガヤと活気に満ちた雰囲気だったが、今はただ静かに、足音だけが廊下に響く。
教授陣の中にも里帰りをしている者が多いようだが、目的となる人物は滞在したままだという。
カイヤはジスト達をぞろぞろ引きつれて、研究棟へ案内した。
廊下のつき当たりがクレイズの研究室だが、用があるのはその手前の部屋。
とはいえ、扉を叩くまでもなく、その人物はクレイズの研究室の前で立ち尽くしていた。
「アンリ先生!」
カイヤが駆け寄ると、その人物はこちらに顔を向ける。
考古学者というからには壮年の男を想像していたが、実際の彼は随分と年若い、素朴な雰囲気の青年だった。
「おや、もう着いたんですね、カイヤさん。
・・・と、これまた大所帯ですねぇ」
青年は軽く会釈する。
「初めまして。僕はアンリ・シュタイン。
この学校の准教授で、カイヤさんの担任で、クレイズ・レーゲン教授の助手です、一応」
少しだけ、どこかの訛りが入ったような口調で彼は話す。
ゆるく三つ編みで結った茶髪をなんとなく弄りつつ、はぁ、とため息をついた。
「すみませんねぇ。レーゲン教授、ずっと引きこもって出てこないんですよ。
何でも、貴方がたに命を救われたとか?
せめて挨拶だけでもさせようとはしているんですが、こりゃ当分出て来そうにないですわ。
えぇと、僕に用事があるんでしたっけ?」
「そうです、そうです!
姫様がアンリ先生に聞きたい事があるって」
「あぁ。宜しく頼む。私が依頼した本人だ」
「これはこれは・・・。
まさか王族の方と話す機会が訪れるとはねぇ。
カイヤさん、ちゃんと失礼なくやれてますかぃ?」
「うっ・・・!
も、もう。そういうのいいですからっ!!」
それもそうですね、とアンリは扉の前から離れる。
「僕の研究室へどうぞ。
カイヤさんのところみたいに広くはないんですが、どうやら込み入ったお話のようですし」
彼は隣の扉を開け、ジスト達を招き入れた。
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