王城へ至るまでにはまだ時間がある。自由行動だ。
ジストは嫌がるコーネルを連れ、ニヴィアンで最も大きい屋敷に足を運ぶ。
ここはオリゾンテの名を連ねる者の住まう場所、――コーネルの親戚の家である。

屋敷の門を訪ねると、門番の兵が腰を抜かしてしまう。

「こ、コーネル殿下ではございませんか!!
そちらは緑の国のジスト殿下?!
一体全体、どのようなご用件で?!」

「うむ。たまたま立ち寄ったものでな。軽く挨拶でも、と思ったのだ。
なぁ、コーネル?」

「知るか。俺は連れてこられただけだ。
分家とは顔も合わせたくない!」

「ま、まぁまぁ、コーネル殿下。そう言わずに。
とても良いタイミングですぞ。
今はマオリお嬢様が寮からお戻りになられておりますゆえ。
シンハ侯爵様もおりますぞ。顔だけでも。
・・・というか、」

門番は困惑気味に苦笑いだ。

「相も変わらず、兄妹喧嘩が絶えないのです。
公爵様も匙を投げている有様で。
どうか鎮めてくださいませ、お二方・・・」

快く頷くジストに対し、コーネルは心底嫌そうな顔をした。





屋敷に入ると、戦々恐々とした空気が張りつめていた。

「俺はこれ以上進みたくない。お前だけで行って来い」

「何を言う、コーネル!
君の従兄妹達だろう?
家出した身だ。誠意を持って挨拶に行くべきであろう?」

「あいつらはオリゾンテの恥さらしだ。関わりたくない・・・」

前進を躊躇うコーネルの背を押そうとしたところで、キンキンと耳に響く金切声が響いてきた。

「ああっもうっ!!やってられませんわ!!
少しは大人になったかと期待しましたのに、とんだ空振りですわよ!!このゴミ男!!」

「うるせぇぞマオリ!!
ていうかなんで帰ってきてんだよ!!一生帰ってくんな!!学校にかじりついてろ、産廃!!」

ほらな?と言わんばかりにコーネルは疲れ切った顔を向けてくる。



コーネルの従兄妹であるシンハとマオリは、青の国で最上級の不仲で知られる兄妹だ。
かつてはリシアとコーネルも顔を合わせれば喧嘩ばかりの姉弟で有名だったが、シンハとマオリはその比ではない。
普段、マオリは魔法学校で寮生活をしているが、時期的に今は学期の節目。長期休暇で、実家に戻ってきているようだ。

この兄妹の不仲ときたら、思わず耳を塞ぎたくなる罵詈雑言の上に物が飛び交う地獄絵図だ。
最悪負傷者が出かねないほどの規模らしく、兄妹が屋敷に揃うと使用人たちは生きた心地がしないのだという。
兄妹喧嘩は2人が幼い頃からすでに始まっていたが、マオリに政略結婚の話が持ち上がった数年前からより一層混沌としたものに成り果てたらしい。
そんな様子を見ていれば、マオリを娶るように差し向けられている張本人のコーネルは視界にも入れたくないのは当たり前だ。

隣国の出身であるジストは、オリゾンテ分家のそこまでの事情は把握していなかった。
ぎゃんぎゃんと響いてくる兄妹の罵り合いを聞かされ、ジストは口を一文字に結んで立ち尽くすのみだ。



目の前の大階段から、マオリがズカズカと降りてくる。
入口前で棒立ちになっている2人組を見、鬼神のような形相だった彼女はあっさりと切り替えて微笑む。

「あら、コーネル様! それにジスト様も!!
お会いできて光栄ですわぁ~! 主にジスト様に♪」

「う、うむ。久しいな、マオリよ。元気なようで何よりだ」

「えぇ!
それにしても、如何されましたの?
お父様なら執務室にいらっしゃいますわ。
ゴミシンハなら自室におりますことよ」

「な、なに、この家出王子に挨拶まわりをさせようとしていたところだ。
君はこれからどこかへ?」

「ショッピングですわ。あぁでも、すぐに戻りますし、帰ったら改めてご挨拶させてくださいまし!
それでは、ごきげんよう」

数人の護衛を引き連れ、マオリは颯爽と外へ出て行った。






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