懐かしい潮風が頬を撫でる。思わずのびのびと両手を広げた。
戦火で混乱する2国から辿り着いた青の国は、相変わらず青い空と海の広がる穏やかな世界だった。
灰が積もる黒の国、雪に覆われた白の国、灼熱の砂漠が広がる赤の国、ときたが故に、青の国の風景は心に潤いをもたらす。
副都市ニヴィアンにやってきた一行は、王都カレイドヴルフに向かう前に一泊宿をとる。
形式的に親書を書き上げたコーネルは、父の名を宛名に記入し、配達の者にそれを託す。
「王子、いいの? 確か、家出してきてるんだよね?
お父さんにボコボコにされない?」
「多少なりともその心配は拭えないが、誠心誠意の謝罪を並べて親書を出しておいた。
少なくともいきなり謹慎として投獄、なんて事にはならないだろう」
「ラズワルド陛下って結構・・・」
「それ以上詮索するな。決意が揺らぐ・・・」
どうにも父にだけは頭が上がらないようだ。
一見冷静を装うコーネルの目が泳いでいる。
「すごい。これが海なんだね」
カルセは開け放たれた窓の向こうをじっと見つめている。
「かわいい。ウミネコだ」
彼が手を伸ばすと、甘い鳴き声を発しながら白い鳥が飛んできて指先にとまる。
普段は表情が薄い彼だが、今は嬉しそうに微笑んでいる。
だが、なんとなく彼のどこかに違和感がある。
この違和感は一体・・・――
「・・・なぁ、カルセ。
お前、そんなに髪白かったか・・・?」
えっ、と振り返る彼は首を傾げる。
確かに、毛先のみ白かった彼の黒髪が、白い部分を増やしている。
なんとなくジストは自分の髪をいじるが、そこである事に気が付いた。
「私の髪が真っ黒に戻っている」
そう、毛先の白さがなくなっているのだ。
「ヘンなの。そんなに頻繁に変わるものなの? ソレって」
「ボクは聞いた事ないですねぇ」
その場では皆不思議だとばかりに首を捻るだけだった。
それがカルセとジストにまつわる“合図”だとは誰も気付かずに。
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