「ティルバ様。水です」

「あぁ、ありがとう。
アクイラの姫達は?」

「もう出発しました」

「そうか。彼らの旅路に幸多からんことを」

祈るように目を閉じてから、ティルバは受け取った水を飲む。

「起きていて大丈夫、なんですか」

「大分よくなったよ。ジスト王女の連れの女の子が、それはもう素晴らしい治癒魔法の使い手でね」

「・・・隊長、行っちゃったんですね」

「あぁ、そうだな」

ゼノイはティルバの傍に腰を下ろす。

「ほんとに、ティルバ様は女王になるんですね」

「ははは! 不安かい?」

「い、いえ、全然、むしろ」

「なぁ、ゼノイ。
もし良ければ、今後は私の傍に仕えてみないか?」

「えっ・・・」

「新しい“隊長”だよ。いかがかな」

無邪気に彼女は微笑んでいる。

「お、俺が、ですか?」

「君以外に考えられないよ。
君の腕は一級品だ。私との付き合いも長いしね」

「そんな・・・。俺では、とても務まらない、です」

「謙遜してくれるな!
今だって、こうやって健気に私の傍で世話してくれているじゃないか」

「それは、その・・・」

「それともあれかい?
もっと別のポジションの方が嬉しいか」

「というと?」

「“女王の婿”、とか?」

顔から湯気が噴き出た気がする。
ゼノイはすごすごと俯いてしまう。

「・・・た、隊長で、お願いします・・・」

「ありゃ、フラれたか。まぁ君も若いからね、そういう女性がいても・・・」

「いっ、いやっ!そのっ!
こ、心の、準備が・・・ちょっと・・・」

「はっはっは!
まったく、いじらしいな!!」

爽やかに笑い飛ばしてはいるが、ティルバの方も、少々顔色が高揚している。

「まぁ、返事はそのうちでいいさ。
今はブランディア再建が先だ」

飲み干したコップを弄び、彼女は窓の向こうを見やる。

「ティルバ様は、その・・・。
今後のブランディアを、どういう国に?」

「実はつい最近まで悩んでいたものだが、ジスト王女と話して吹っ切れた面もあってね。
・・・私は私が目指す道を行く。
まだまだヴィオルに甘い蜜を吸わせてもらっていた連中が多いからな。
害虫駆除が先かもしれないけれども!」

「・・・俺、ティルバ様なら、いい国が造れると思う・・・です」

「ありがとう。君の期待に応えられるように、立派な女王になるよ」

はい、と頷くゼノイは微かに微笑んでいた。









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