頬に一筋、血が流れる。
流れた雫は刃を伝い、コーネルの指先に触れる。
「やればできるやん、お前。
久しぶりにヒヤッとしたわ」
ぐい、と血を拭った時、赤い前髪がわずかに除けられる。
見間違いかと目を見張るコーネルに気付いたのか、メノウは長い髪を耳にかけた。
普段は隠れて見えない、彼の右目が露わになる。
「なんだ、その瞳は・・・」
いつも見ている瞳は朱色。
だが右の瞳は、夕暮れのような橙。
「そんなに珍しいか?」
「・・・人間ではないのか、あんたは?」
くく、とメノウは笑う。
「なあに、ほんの半分“悪魔”の血が混ざっとるだけや。
その昔、親父を誑かしたイケ好かない女悪魔のな」
「悪魔だと・・・?」
あまり聞き慣れない種族だが、恐らくは“忌み嫌われる者”。
返す言葉を探してしきりに瞬きをするコーネルの背を、大きな手がポンポンと叩く。
「ま、深く気にすんな。
それにしてもお前、すごいで。“人間じゃない”奴に一本とったんや」
冗談っぽく言いつつ彼は笑う。
「さて、ここら辺にしとくか。
もう暗いしな」
「・・・あぁ。時間をとらせて悪かった」
「いいや。楽しかったで」
つかつかと歩いてきたメノウは、コーネルに何かを差し出す。
「これは」
「餞別や。お前にやる。
使い方はまぁ、そのうち見て覚えろ」
コーネルは手に握るものをまじまじと見つめる。
黒い拳銃だ。メノウがいつも使っているものとそっくりだが、まだ使われた事のない初々しさがある。
「使わんで済むならそれがいい。
せやけど、使うべき時は使え。そいつは人を殺すが、その代わり救える者もおる」
そこまで大きい代物ではない。
だが、その手に重くのしかかってくる存在感は初めての感触だ。
人の命を握る感覚、例えるならばそんなところか。
「受け取っておく」
「くく。素直な方が可愛げあるで、あんさん」
「なっ!」
ヒラヒラと手を振って退散するメノウを見送る。
急に力が抜け、腑抜けた笑いが漏れた。
「よくわからない男だ、まったく・・・」
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