怪我人の世話、今後の方針。
コーネルはそのどちらにも関わろうとはしない。
ただ、じっと、小屋の傍で自分の剣を見つめていた。

「あんさん、そんなとこおると干からびるで」

メノウの声がする。
そちらに顔を向けると、彼はサフィに頼まれた荷物を抱えて戻ってきた姿のようだった。

「おい、傭兵」

コーネル自身、不思議なくらいに、すんなりとその言葉が出てきた。

「その荷物を置いたら、少し付き合え。
――“あんた”と腕試しをしたい」

しばらく驚いたように固まっていたメノウだが、わかった、と答えると小屋に荷物を下ろしに行く。





「で。一体どういう風の吹き回しやの?」

「わかりやすい話だ。俺に戦いを教えて欲しい。そう思っただけの事」

「あんさんかて、大分腕上げたやろ?
今更・・・」

「違う。俺が知りたいのは“殺しの技”だ」

一瞬、サングラスの向こうの瞳が鋭くなった。

「・・・遊びやないで。ふざけとるんなら一発殴るぞ」

「大真面目だ。俺は・・・」

コーネルは一歩、メノウに近づく。

「ただ、ジストを守りたいと、そう願う。
俺に出来る事はそれくらいしか思いつかない。
例えそれでこの手を汚す事になろうとも、もう覚悟はできている」

「二言はないか」

「ない」

真っ青な瞳の視線が捕えて放さない。

「認める。俺は無力だ。何も出来やしない。こんな俺が、ジストを守れるか? 冗談じゃない。
確かに、最初はジストに対抗して城を出た身だ。だが俺は馬鹿だ。
ジストにはジストなりの旅の目的がある。それなのに、俺ときたら。
あいつの道にいちいち文句を並べて、かといってあいつの役に立つわけでもない。
あいつは誰がどう見ても“人がいい”。俺を快く迎え入れてくれた。俺はそれに甘えていただけだ。
・・・あんたを執拗に恨んだ本当の理由は、傭兵だからじゃない。本来俺が立つべき場所にいたのがあんただからだ。
あんたが羨ましかったんだ。力も知恵も、俺が持っていないものをあんたは持っていたから」

一呼吸置き、彼は続ける。

「俺は強くなりたい。強くならねば、カレイドヴルフには戻れない。父上に合わせる顔がない。ジストと対等に値する資格がない。
それに・・・――アクロに、勝てない」

しばらく沈黙が続く。
2人の間を、風が吹き抜ける。

「お前の覚悟は聞いた」

大剣が鼻先に突き付けられる。

「殺す気でかかってこい。遠慮はいらん。
言葉で教えるのは苦手やさかい、実戦あるのみや。
昔とは違う。今度は、鞘は外す。こっちなりの礼儀や。
お前が本気でかかってくるなら、本気で受けてやる。
今から叩き込むのは“殺しの技”そのものや。
ナメとるとほんまに死ぬで」

「・・・あぁ。それでいい。いくぞ、メノウ!!」

「来い、コーネル。――その覚悟、後悔すんなよ」

2人は間合いを取る。









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