――はるか昔。

人間が興した5ヶ国という括りさえもないほどの昔。
世界は一度“滅んだ”。



海は沸き、大地は割れ、空は光を覆い隠す。
地獄と呼ぶにふさわしき世界。

“邪なる者”は世界を壊し、無に帰さんとした。
それ即ち、負の神である。

負の神は、抗えぬ滅亡の具現である。
世界の終焉を運ぶ者である。

この世界は終焉を迎えるはずであったのだ。



世界に住まう人々は、世界の終焉に立ち向かわんとした。
運命に抗う事を選んだ者達は、負の神に対なす正の神に祈りを捧げ、終焉を阻止する術を与えられた。
5つの聖なる指輪、そして正の神より遣わされし2人の聖女。

5つの指輪は負の神を封じ、2人の聖女は枯れた大地を蘇らせた。

人々は正の神の加護を崇め奉り、終焉を阻止した指輪を携えし5人の勇者は新たなる国を興す。

かつて失われた自然を司る国を。


風を呼ぶ国、水を生む国、炎を熾す国、光を祈る国、星を仰ぐ国。


ただ1つでも欠けた時、歴史は繰り返されるだろう。
その終焉を止める者は、何処か・・・――





「・・・大昔から我々に伝わる物語だ。
勿論、現実にそれを見た者はいない。我々とて長命といえど、神話を目にするほどの時の長さはない。
どうだ、お前が求める話だったか?」

「あぁ、まったく、その通りのものだった」

5つの指輪。2人の聖女。
クロラから聞いた話の端が垣間見える。

「・・・え、姫様。
まさかとは思いますが、ボク達、そんなものを相手にしようとしてるんですか・・・?!
こ、こんな、カミサマみたいな」

「私も今、さすがに動揺しているところだ」

ジストは右手を握りしめる。

「負とはいえど、神は神だ。
それをたった5人の勇者が封じたなど、我々とて夢物語と思わない方が非現実的というものよ」

気が遠くなるような規模だと感じる。
“邪なる者”、その正体さえ掴めれば向かうべき場所がわかると予想していたが、逆に遠退いたような気さえする。

「姫様、これから一体どうするんですか・・・?」

「・・・とにかく、だ。
規模の大きさは度外視すると、私が目指すべきものの姿が見えてきたという事になる。
あとはそれを現実の範疇に落とし込めばいい。
カレイドヴルフに向かう。次は人間の話を聞く番だ」









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