「まずは、・・・そうだな。祈りを捧げよう。
あれでも一応は私の兄であったからね」

ティルバは静かに目を閉じる。
数分してから、ふっ、と瞳を開いた。

「最後まで姑息な男だった。
君の身代わりの彼は無事かい?」

「あぁ。解毒が間に合ったおかげで、意識はある」

「そうか。それはよかった。申し訳なかったね」

さて、とティルバは横たわったまま背筋を伸ばす。

「約束通り、指輪は君に預けよう。
私は怪我が治り次第、ブランディアにて女王として即位する宣言をする。
随分遠回りしてしまったが・・・ようやく亡き父上に顔向けができる」

「ほんま、やっとやな。
これでもう大丈夫、か?」

「そうだな。うん。ロート、私はやっと一人前になれそうだ」

「後は全部任せた。ゼノイもおるし、まぁ、なんとかなるやろ」

「頼もしい右腕だからな、彼は。
ロート、長らく済まなかった。これからは心置きなく自分の人生を歩んでくれ。
本当はずっと後ろめたかったのだろう?
君はずっと、私の側近として私を支えてくれていたからな」

「・・・ま、終わった事や」

ティルバは微笑む。

「ジスト王女。こいつは本当に腕のいい“騎士”だ。
もしよかったら雇ってやってくれ。君の国で、な」

「メノウを、か?」

「アホ抜かせ。ワイはもう城勤めなんざ堪忍やわ。
傭兵は気楽でえぇ。なーんも気にせんと、適当に生きられるさかい」

ジストは隣に座るメノウを改めて見つめる。

「なんや、姫さん。その気になったんか」

「そうだな。盲点だったが、そういうのもアリかもしれないな、うむ」

「なしなし、なーし。もうワイは“騎士”なんざおエラい名前語れるほど清くもないわ」

「・・・ま、こういう奴だが今後ともよろしく頼むよ。
こう見えて、彼の忠誠心だけは揺るがない。彼は自分が認めた者しか信じないからね」

「あぁ、もう余計な事喋るな。
調子狂うわ」

“自分が認めた者しか信じない”。
以前彼はジスト自身に忠誠を誓う、と言ってくれた。
言葉にはしないが確かに存在する彼の信念、それをジストは重く受け止める。

「次に向かうのはカレイドヴルフ、だったか。
君ならなんの心配もいらないだろうが、どうかその尊い責務を全うしてくれ。
いつか王族会議で会おう、未来のアクイラ女王!」

「あぁ。きっと、何事も終わった未来で、また会おう」

右手をぎゅっと握りしめ、ジストは大きく頷いた。








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