ちょうど部屋の真上の天井裏に忍び込み、カルセから送られてくる映像と天井の隙間からの光景でタイミングを見計らう。
ヴィオルが高級そうなワイン瓶を片手に戻ってきた。

「さあ、思う存分飲むが良い。
蕩ければ蕩けるほど良い気分だぞ」

グラスに赤ワインが注がれる。
カルセはそれを見つめていた。

「どうした? 飲まないのか?
毒など入っていないぞ」

映像が微かに跳ねる。動揺が伝わってきた。

「ヴィオル殿は?」

「なに、俺には飲むための美意識がある。
遠慮せずに飲むがいい」

「・・・では」

何か嫌な予感がする。
カルセも躊躇っているようだ。だがここで留まってはこれまでの演技が水泡と化す。
一瞬息を飲んだ後、カルセは酒を口にした。


ビリ、と映像が乱れる。


「・・・おい!」

使い魔の小鳥が一瞬で消えてしまった。

「う、うう・・・!!」

下で呻き声がする。――状況が暗転した。

「馬鹿め!!
貴様が偽物なことくらいハナからわかっていたぞ!!
もがき苦しむがいい!!」

「あ、が・・・!!」

「カルセ!!」

本物のジストの悲鳴が漏れる。
間髪入れずに、メノウは天井を突き破った。

「ネズミだな。汚らわしいネズミ共め。
こいつがどこの誰かは知らぬが、なかなか、見応えのある健闘ではあったぞ?
ふはははは!!!」

「こンの下衆が。脳天ブチかましたるから歯ァ食いしばれ!」

「アードリガーの残り物よ。貴様は何度俺を苛立たせれば気が済むのか。
そこから一歩でも動いてみろ?
こいつを殺すぞ、ははは!!」

ヴィオルも拳銃を手にしていた。
銃口は倒れるカルセに向いている。
毒に侵され、彼はどんどん意識を遠退かせていく。

「くっ・・・! あいつっ・・・!」

「まずい、カルセが!
ヴィオル!! いいや、あえて言おう、この外道!!
カルセに何を飲ませた!!」

「酒だよ、酒。見ての通りだ。
まぁ、“毒酒”ではあるが? くくっ・・・ふははは!!」

カチャ、とヴィオルの指がトリガーにかかる。

「安心しろ。すぐに全員、同じところへ送ってやる。
いや、違うな。ジスト、貴様だけは残れ。
オトモダチが死にゆく様を俺の腕に抱かれながら見つめているといい」

「ふざけるなっ!!
誰が、誰が貴様などに屈服するか!!
貴様に抱かれるくらいなら舌を噛み切って自害する!!!」

「それもまた一興。
さぁ、時間だ。最後の祈りは済んだか? ネズミ共!!」

パン!!と銃声が同時に響く。

片やヴィオルが、片やメノウが、ゆらりと崩れる。








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