「自ら、わざわざ戻ってくるとは。
愚かだがいじらしい。気に入ったぞ、ジスト」

「あ、あぁ、私は冷静に考えたのだ。
この身を捧げる事で、ミストルテインに栄華が戻ると確信した」

「ほう・・・?
妙に物分かりがいいな。この前の生意気な態度が懐かしいものだが」

映像越しにもカルセが慌てているのが手に取るようにわかる。

「か、勘違いするな!!
私は国の為に身を捧げるのであって、貴様にはビタ一文の感情もないっ!!」



「へぇ、その線で行くか。カルセって意外にやるねぇ」

「煩いぞ死に損ない。声が拾えない」



大きなソファにゆったりと腰かけていたヴィオルは、そっと近づいてくる。
彼の指先がカルセの髪に触れた。

「相変わらず美しい黒髪よ。
さて・・・。この前はどこぞのボンクラに邪魔をされたが、今日はゆっくり楽しむとしよう」



「誰がボンクラだ、誰が。もう一度壺を叩きつけるぞ」

「あんさん、落ち着け」



ヴィオルが徐々に迫ってくる。
遠隔で見つめる映像はカルセの視点である。
つまり、今とんでもない光景が広がっているのである。

「うわあああ無理いいい!!
俺ちょっとギブ!!」

「貴様、裏切るのか!! 見届けるのではないのか!!」

「しんど・・・」

「情けない男性陣ですねぇ。これぐらいが何ですか。
まぁ、姫様が平手したくなるのもわかりますがね、この顔」

「は、はわわわ、だだだ大丈夫なんですか、これ・・・?!」

「カルセ、すまない・・・」

思わず謝罪の言葉が漏れるが、映像は意外な行動に出るのであった。

「ヴィオル殿、そう焦りなさるな。
時間はたっぷりとある。
そうだな、“そういう”気分になる酒の1つでもあれば、より楽しめるかと・・・?」

これは本当にあのカルセドニーなのか。
機転の利きがジスト本人の比にならないとさえ思えてくる。

「ほほう、“そういう”、とは?」

「ヴィオル殿、私に言わせるのか?」

「いや、良いぞ。面白い。
極上の物を用意してやろう。少し待て」

彼はグラスを2つ、テーブルの上に置いた。
たかがグラス、されど、高級な品である事はよくわかる、精巧な彫刻がなされていた。
ヴィオルは酒を持ってこさせようと席を離れる。
彼が背を向けた瞬間、カルセは素早く一滴、ヴィオルのグラスに薬を垂らした。

「今だ!!」

映像を見ていた一行は、城の裏手に忍び込み、2人がいる部屋を目指す。








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